自作小説
まだランスが小さい頃のお話です。休日いつもはのんびりしているもぞさんが、 忙しそうにカバンに荷物を詰めています。 ランスはその様子を、きょとんとしながら見ていました。 やがて、もぞさんは「さあ、ランス行くよ。」と、抱き上げると、 そのままリュ…
時は平成三十年八月夜。窓を閉め切ると外の世界の音はほとんど聞こえない。しかし、しばらくすると、かすかにポンポンと花火の上がる音がする。どこで花火を上げているのだろうと窓を開けると、途端にむわっと蒸した空気が室内に流れ込んでくる。辺りを見渡…
その日は冬にしては珍しい大雨が降った日だった。それは、ときには地に水煙を立てるように激しく、そして、それは不意にやってきたため、夕方近く、帰宅する道行く人々の多くは雨宿りを余儀なくされた。その中に、繁華街から少し外れた人通りの絶えた商店街…
私は、Tの私への呼びかけで、ふと我に帰りました。「Mさん、自分、Aさんに告(こく)った方がいいですかね?」私は心の中で迷っていました。迷ったというよりも、二つの心が格闘していました。自分こそAさんに深い恋心をずっと抱いていたのだとTを押し…
夏目漱石「こころ」に捧げるたとえ見せて怒られても(^_^;)その話をした男は、Mと申します。田舎から大学入学で上京し、そのまま東京にある会社に就職した三十代半ばの男です。Mはいつもは物静かな男なのですが、その日は珍しく、したたか酒で酔っていたこ…
5月の課題は「恐怖」。えーっと、恐怖、恐怖…実は、この自分、「恐怖」というものに、あまり興味をもつことなく、今日まで生きてきました。恐怖映画のようなものは見るには見ますが、その印象は、自分の手をつねったのと似たところがあります。つまり、つね…
「この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。」こんにちは、雪乃です。みなさん新緑の季節いかがお過ごしでしょうか。相変わらず、よし子さんの厳しいトレーニングは続いています。最近…変わったことというほどでも…
「この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。」こうして私とよし子さんの共同トレーニングが始まりました。私、ちょっと勘違いしていました。ふくよかな人、イコール運動が苦手。というイメージで思い込んでいたの…
「この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。」皆さま、お久しぶりです。雪乃です。ぼうっとしている間に、桜の季節もあっという間に過ぎ去り、はやゴールデンウイーク。ぼやぼやしている間に、ただ、一さいは過ぎ…
年が明け、季節は、また春になろうとしていた。暖かい南風に潮の香がほんのりと香る春になっても、重吉の体調は一向に上向くことはなかった。自分自身の行く末を考え、鬱々とふさぎ込み、ひたすら溜め息をつく日々が続いた。そのうち溜め息をつく日々にも飽…
年が明けてからというもの、重吉は風邪でよく学校を休むようになった。地元の医者に診てもらったが、普通の風邪だといって解熱剤を出してくれるばかりだった。しかし日に日に重吉の体は弱っていった。らちがあかないので、登美子は意を決し、或る人の紹介を…
年も暮れようとしていた師走のある日、重吉は、産まれたばかりの長男陽二をあやす妻登美子に言った。「前から話があった千葉の柏の教職を受けようと思うんだが…」登美子は一瞬手をとめ、ふと、今までの、ここでの生活のことを振り返った。結婚して3年近く…
前回は「桜もしくは梅」ということで、梅については以前「寒戻りの梅」という作品を書かせていただきましたので、今回は桜で考えました。桜については、皆さんいろいろな思い出や思いがあると思いますが、自分は昨年偶然目にした、ある詩人の桜の詩に非常に…
「この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。」男はやぶにらみに睨みつけながら、私に近寄ってきました。「なんだ~お前は。コスプレごっこか?」本来の特撮ヒロインものなら、ここで堂々と名乗りをあげて闘いを挑…
「この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。」そんなこんなで最初のうちは、家の中でコスチュームを着て、喜んでいたのですが、そのうち飽き足らなくなって、ちょっとだけで外で…と考えるようになりました。しかし…
「この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。」わたくし、地方在住で専業主婦をしております雪乃と申します。夫のゆうちゃんとは大恋愛の末結婚して、はや十余年。子供はおりません。今流行りのアラフォー世代ど真…
まず、あとがきの記事を書く理由ですが、作品は小説の手習いとして書いておりますので、ある種の覚え書きといいますか、どういう意図でこのように構成したか、描写したかということを書き留めることを主な目的としています。興味あるようでしたら、ぜひご覧…
老狼の自分自身との絶望的な闘いは夜通し続いた。苦しそうに吐き出される息は、おりからの寒さで白く宙に舞い上がった。少年は為す術なく、じっと老狼に寄り添うしかなかった。やがて夜が明け、朝になった。老狼の闘いはまだ続いていた。少年は居ても立って…
森に冬がやってきた。冷たい冬の風が森の木々の間を吹き抜け、寒さのあまり木々達はさわさわと音をたてて震えていた。その冷たい風が吹きすさぶ小高い丘の上に少年は立っていた。少年の輝いた瞳は草原の向こうを、微動だにせずにじっと見つめていた。その姿…
秋が訪れた。実りの秋。森の動物たちは来るべき冬に備え、エサを求めて野外にくり出す。それはまた絶好の狩り場ともなった。老狼は少年に言った。「狩りのやり方もいよいよ最後の仕上げだ。今度から1人で追いかけて、1人で獲物を捕らえるんだ。それを覚え…
その夜は満月の月の光が、黒い森の奥まで差し込む明るい夜だった。満月と相和すようにあまたの星々も煌々と夜空に輝いていた。やがて満月が青い雲に隠れ、辺りが暗くなるとすっかり寝静まった群れから一匹がむくっと起き上がった。少年だった。少年は他の家…
とある大きな黒い森に一組の狼の群れが暮らしていた。それはひとつの家族で、群れのリーダーたる父親、そして母親、何人かの子ども達、あと居候の老狼で構成されていた。この老狼だけは他の狼と違い血はつながっていなかったが、狼の群れにはよくあることで…
けっさんさんの自作小説の課題は12月締切のものはありません。しかしそれでは寂しいので一編書いてみました。先月の自作小説でいただいた投稿の中で、もっと登場人物の具体的な人物像や関係といったものを、ふくらまして欲しいという趣旨のものがありまし…
拙い自作作品を読んでいただいて、皆様ありがとうございます。この作品の最初の構想では、「僕」は彼女の死を知って嘆き悲しみ、時が経ち、幻のように消え去ってしまった彼女を追憶するという内容にして、1記事にまとめようと考えていました。しかし「僕」…
東京に帰った僕は、彼女のことが気になりながらも、来るべき大学の試験に向けての準備に明け暮れていた。そんな時、実家から小包が届いた。その中にはいつも通りの食料品などの他に、遅れて届いた年賀状なども入っていた。なにげなく一枚一枚めくって見てい…
しばらく二人は、みぞれ雨の降る中、静けさの中の、春の梅園を散策していたが、おもむろに僕が沈黙を破った。「…そろそろお昼でも食べようか」彼女は黙ってうなずいた。園内にあるレストランに入って、温かい食べ物と飲み物を口にすると、彼女は幾分快活にな…
僕と彼女は高校三年の時、同じクラスになり知り合った。四月の新学期当初、出席番号順に席が並んでおり、ちょうど同じような名前順だった二人は隣同士の席になった。彼女はショートカットにちょっと癖っ毛で、つぶらな目をした細面の愛らしい子だった。天真…
第十一夜中学生の時こんな夢を見た。僕は疲れきって夢の中で机にうつ伏して寝てしまっていた。すると隣で人の気配がする。うつ伏したままの状態で、うっすらと目だけ開けると、机が両並びになっていて、隣で自分よりちょっとお姉さんの感じの女の子が一生懸…
私は仕事が終わると、いつものように寄り道しないで真っすぐ家路についた。秋の夕暮れ時、まだ辺りは暗くはなかったが、昼間という感じでもない、ぼんやりとした薄明るい時間帯だった。アパートの階段を上っていくと、自分の部屋の前に一人の男が立っていた…
「本日は中秋の名月です。各地好天に恵まれ、お月見日和となるでしょう」朝のラジオがニュースを伝えた。「そうだ、今日は十五夜か。これはぜひ中秋の名月で一句詠まなきゃ」今年になって和歌や俳句をかじり始めた僕は会社に行く支度をしながらそんなことを…