【自作小説】「雨上がりの傘」
それは、ときには地に水煙を立てるように激しく、
そして、それは不意にやってきたため、
夕方近く、帰宅する道行く人々の多くは雨宿りを余儀なくされた。
その中に、繁華街から少し外れた人通りの絶えた商店街のあたりで、
自分の家に帰ろうとして途中で足留めされた制服姿の高校生らしき少女がいた。
シャッターの閉じた商店の入口の僅かな庇(ひさし)の中に、
彼女は身をちぢこませるように入りながら、
雨が降り注ぐどんよりとした灰色の空を、その愛らしい黒い瞳で恨めしそうに眺めていた。
時折、風は強く、地から吹き上げるように吹いたので、
その度に彼女の長い髪は吹き上がり、
彼女の整った美しい眉は苦悶の表情を見せた。
その時である。
一人の少年がバシャバシャと雨の中を走ってきたかと思うと、
少女と同い年くらいであろうか、 詰襟の学生服を着た彼は息をはずませながら
雨宿りしていた少女に近づくや、今まで自分のさしていた傘を彼女に差し出し、
咄嗟のことに少女は、傘を手に持ったまま、雨の中の少年の後ろ姿を呆然と見つめていたが、
やがて彼は雨煙の中に消えて見えなくなっていった。
どこの誰と名乗るわけでなく、彼女も彼のことを知ろうはずもない。
しかし、彼女を雨に濡らすことなく無事家まで送り届けたその傘は、確かにその時、二人を繋げていた。
濃紺の大きく開いた傘は、少女をしっかりと包みこみ、
白く雨に煙った風景の中をゆっくりと進んでいった。
終
新しい方のために申し上げますが、自分は自身で作品も書くことがあります。
作家になろうとかそういうことではなく、
書き手の立場に立ってはじめてわかることもあるというコンセプトによるものです。
読んでいただいて楽しんでいただければ、これ以上のことはありません。
ちょっと恥ずかしいですが(^_^;)
少しだけ内容について述べますと、
この作品のテーマは少女に対する少年の恋心です。
ではこの少年の恋は成就したといえるのでしょうか。
そういう意味合いをこめて書いてみました。