らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「寒戻りの梅」或る日の二人の風景

けっさんさんの自作小説の課題は12月締切のものはありません。

しかしそれでは寂しいので一編書いてみました。

先月の自作小説でいただいた投稿の中で、
もっと登場人物の具体的な人物像や関係といったものを、
ふくらまして欲しいという趣旨のものがありました。

短編という制約はありましたが、確かに登場人物のさりげない日常の高校生活など、
ほとんど描けていないので、一理も二理もあると思いました。

これと併せて本編を読んでいただければ、作品のイメージが広がるのではないかと、
ささやかな期待を抱いて書いてみました。
本編を読んだことのない方も、これだけでも短編として読めるようにしておりますが、
興味をもたれましたら、本編も読んでいただけると嬉しいです。
詳しくは書庫「自作小説」をご覧ください。





「或る日の二人の風景」



あれは七月に入ったばかりのことだったか。
期末テストも終わり、夏休みにどこの夏期講習に行こうかという話で、
教室が盛り上がっていた頃だったと思う。

帰ろうとしていた僕に彼女が質問してきた。

「ねえねえ、前から聞こうと思ってたんだけど、
古文の勉強法って外国語だと思って勉強した方がいいっていう人がいるじゃない。
あれってどうなのかな」

彼女はどうも古文が苦手で、あまり好きじゃないって、そういえば言っていた。
勉強法であれこれと悩んでいたらしい。

「うーん、自分は同じ日本語として考えた方が、とっかかりがあって、なじみやすいけどね」

「ふーん、じゃあ、日本語として考えた方がやっぱりいいのかな」

僕は少し考えて

「いや、自分がイメージしやすい感覚で勉強すればいいんじゃないかな。
みゆきさん、英語得意じゃない。
だから外国語だと思ってイメージするのも、ひとつの手だと思うよ」

「あー、そうねえ」

彼女はまだ納得しかねる様子だった。

そこで僕は

「古文を日本語、外国語どちらで考えても、勉強方法はあまり変わらないと思うよ。
どっちがとっつきやすいかイメージの問題で。
それより文法とか規則の勉強ばかりで、古文がいやになっちゃうこと多いから、
おもしろい現代語訳の読み物読むのをお勧めするけど」

「おもしろい現代語訳の読み物?ふーん、そんなのあるんだ」

「なんかいろいろあるみたいだよ。詳しくは知らないけど」

僕は本屋に一緒につきあってあげたかったのだけど、
その週は早く家に帰らないといけなくて、つきあってあげられなかった。


幾日か経って、僕は、教室で彼女が何かの本を熱心に読みふけっているのを見た。

僕は隣の席に座って、尋ねた。

「何か一生懸命読んでるけど、何の本?、それ」

彼女は顔をあげて

「あー、これ、この前買ってきたの、古典の現代語訳の読み物なの」

「へぇー、何て本?」

「あー、これ?これはねえ、そのお、ええとねえ…
……語訳枕草子っていうの」

肝心な部分が聞き取れなかったので、僕は再び聞いた。

「えっ?ごめん、よく聞き取れなかった。何語訳枕草子?」

すると彼女はちょっと赤くなって

「だから桃尻語訳っ!」

と照れるというか恥ずかしそうというか、
そんな言葉、私に何回も言わせないでよ。というような口調で言った。

当時、枕草子を現代OL口調に訳した桃尻語訳枕草子という本が出ていて、
彼女はそれを読んでいたのだ。

普通にさらっと言えばどうってことないのに、妙に意識してしまうと、
桃尻という言葉が艶めかしいというか、必要以上に意識されてしまって、
妙に恥ずかしく感じてしまう。

彼女につられて、僕も思わず、ちょっと赤くなってしまった。

それでその場に居づらくなり

「ちょ、ちょっと、用事思い出した。職員室行ってくる」

と慌てて、教室から逃げるように飛び出してしまった。

あんな変なところで意識するから、こっちまで恥ずかしくなっちゃったじゃないか…
なんで僕が教室飛び出さなきゃいけないんだ。

と彼女に心の中でぶつぶつ文句を言いながら、あてどなく校舎をぐるりと一周するのだった。



おわり