らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【けっさんさん1月課題分】小説「狼の少年の物語」春

とある大きな黒い森に一組の狼の群れが暮らしていた。

それはひとつの家族で、群れのリーダーたる父親、そして母親、
何人かの子ども達、あと居候の老狼で構成されていた。
この老狼だけは他の狼と違い血はつながっていなかったが、
狼の群れにはよくあることであった。

季節は春。
雪は溶け、森の木々も次第に若芽をふき出し、
暖かな太陽の光は森に万遍なく降りそそいでいた。

群れの中の、去年生まれたばかりの一番小さな兄弟達も、
春の光に誘われて、よちよちとすみかの穴ぐらからはい出して遊んでいた。

群れの一番年長の少年は、この春、初めて狩りに出た。
狩りに出るのは父親と居候の老狼と少年の三匹。
少年と同じ年に生まれた兄弟は、栄養状態が悪く、赤ん坊の頃、既に亡くなり、
その世代は少年だけになっていた。

むろん最初からうまく狩りが出来ようはずもない。
少年は獲物をむやみに追いかけ疲れ果ててしまい、
指をくわえて父親と老狼による狩りを見ている他はなかった。

父親は狩りの間終始無言で、少年に狩りの仕方を教えてくれるわけではない。
どうしたらよいかわからず、狩り場をうろうろしていた少年に老狼が声をかけた。

「もたん、まずはな、二人の狩りをよく見るんだ。
見て頭の中に狩りのイメージをたたきこむんだよ。あせらずにな」

老狼はにこりと微笑みながら言った。

手練れの父親と経験豊かな老狼のコンビとはいえ、狩りは常に成功するわけではない。
5回に1度成功すればよい方だ。

少年は春の温かくなった草の上に伏せながら、二人の狩りの様子をじっと眺めていた。


このように、やっとのことで手に入れた獲物の分け前は、まず獲物を仕留めた父親が1人で食べる。

それは狼の厳しい掟。
狩りをする者が空腹では獲物を仕留められず、群れはいずれ全員飢え死にしてしまう。

その残りを他の家族で分け合う。

家族といえどもここでは生き残るためのライバルとなる。
十分に食べられなかった兄弟は飢え死にしてしまうこともある。
少年もそれに勝ち抜いて大きくなった。

しかしさらに大きく成長しつつある少年にとっては、
骨にわずかに残る肉をねぶる程度では、とても満足できるものではなかった。

だが、自分で獲物を仕留められない以上、父親の残り物に甘んじるより他にない。

いつも少年は空腹で満たされずイライラしていた。


そしてある晩、ついに事件は起こった。

事の発端は、いつものようにまず父親が獲物にありついていた最中に、
少年が獲物にかじりついたことであった。

狼の掟に背くような行為を、家長たる父親は絶対に許しはしない。
体のはるかに大きな父親にかなうはずもなく、
たちまち咬み伏せられ少年はその場から退散するしかなかった。

その結果、少年は普段ありつけるものにさえありつくことができなかった。

その夜、少年は空腹と悔しさで眠ることができなかった。

そしてそんな夜が何日か続いた。

春の三日月が夜空に横たわっていたある晩、少年は決意した。

群れを出てゆこう。
出ていって自分の思ったように生きてみよう。

日が経つにつれ、その決意は春の草花がむくむくと成長するがごとく、大きくふくらんでいった。


続く