らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【けっさんさん2月課題分】小説「熟少女仮面」 飛翔編

「この作品はフィクションであり、
実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。」



男はやぶにらみに睨みつけながら、私に近寄ってきました。

「なんだ~お前は。コスプレごっこか?」

本来の特撮ヒロインものなら、
ここで堂々と名乗りをあげて闘いを挑むべき場面なのでしょうが、
あれはテレビの中でのお話。
現実の私は、そんな余裕もなくおどおどするばかり。

あとになって思いましたが、
名乗りって、相手も呼吸を合わせてくれないと
なかなか決まらないものなんですよね。
あの時、初めて理解しました。


「おい!聞いてるのか、お前!こっちに来いって言ってるんだ!」

男の大声にびっくりして、
私はとっさにその場から一目散に逃げ出しました。

すると男は追いかけてくるではありませんか。

もう生きた心地が…

子供の頃から、ちっちゃくてすばしっこいのが取り柄の私。

それでも男はしつこく追ってきます。

石灯籠の間をすり抜け、境内の杉木立の中をぐるぐると、逃げに逃げました。

でも、まずい…このままではいつか捕まってしまう…
という恐怖で、逃げながら頭の中が真っ白に。


ゆうちゃん…助けて、私…もうダメ…



ぐるりと境内をひと回りするように逃げ、再び神社の石階段を小走りに登っていった時、
男はすぐ目前の階下まで迫っていました。


ダメ…、捕まる…


私は恐怖を振り払い、窮鼠猫を咬むがごとく、
振り向きざまに無我夢中でジャンプ!
「えいっ!」
いえ、「きえっ!」だったかも…

ジャンプした後の記憶は、全く真っ白の空白で何も覚えていません。


…どこっ!…


なにかとてつもなく鈍い音がして、はっと我に帰ると、
私のすぐ横に半分白目を剥いて、大の字の仰向けで倒れている男が…


「何?いやだ、私…が倒したの…!?」

と、とにかく、警察に電話しないと。
震える手ですぐそばの公衆電話から、警察に連絡。

なにか放心状態で、その場にしばらく
ぼおっと突っ立っていましたが、
その時、ゆうちゃんからメールが。
「出張早めに終わった。2時間で家に着くよ。」

ここで私は我を取り戻しました。

あら、大変。
早く帰って晩ご飯の支度をしないと。

そこで悪いとは思いましたが、警察が到着したのを遠くから見届けて、
愛用の軽自動車をすっ飛ばして、家に帰りました。



…次の日、ゆうちゃんと朝ご飯を食べていますと、
新聞を読んでいたゆうちゃんが
「例の連続空き巣犯、昨日捕まったらしいよ。
なんでも郊外の神社の鳥居の前で
大の字で倒れてたんだって。
なんで倒れてたんだろうね。」

まさか、私が絡んでいるとはいえませんから
「そうねえ、不思議なこともあるものねえ」
とさりげなく調子を合わせておきました。

「ひょっとして、あれかな。
神の雷(いかずち)みたいなものにやられたかのも」

ゆうちゃんは、嬉々として、この話題をなかなかやめようとはしません。

でも「神の雷(いかずち)」。
さすがゆうちゃん。
なかなかよいネーミングではないですか。
蝶の舞いとどっこいどっこいの良さですね。

なお、コスチュームは帰って洗濯する時間がなかったので、
とりあえず押し入れの奥に突っ込んで、隠してあります。

ゆうちゃんがまた出張に行ったら、
洗濯してきちんとアイロンをかけておかねば。

大切なコスチュームですからね。

これからも度々着ることもあると思います。

格言にあるじゃないですか。
「継続は力なり」

ですよね。




「熟少女仮面」飛翔編完