らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【演劇】ミュージカル「キャッツ」観覧記 後編

 

 


(ニューヨークのキャッツシアター)


さて、自分が鑑賞したブロードウェイの「キャッツ」ですが、
実は前半と後半の休憩の幕間に、思いがけぬファンサービスが行われました。

長老猫が舞台に残り、
ミュージカルを見に来た子供たちにサインをしてくれたのです。
自分は子供とは言い難いのですが、
思い切って、サインを貰いに列に並びました。
ミーハーだなと笑われるかもしれませんが、
ブロードウェイの舞台というものに、
実際、この足で立ってみたいと思ったからです。

先ほどまで「キャッツ」の猫達が飛び跳ねていたその舞台…

その舞台の床は、華やかなミュージカルからは想像できない、
木の床は本番に向けて、きれいに磨かれてはいましたが、
幾百幾千のダンサー達に踏みしめられてきたのでしょうか、
例えていうなら、
造ってから数十年が経過した中学の体育館の講堂の床のように古びていました。

この舞台に立つために、そして立った後にも流れたであろう
ダンサー達の汗と涙がしみこんで、それが幾層にも重なったような
薄汚れてくすんだ木の床がそこにありました。

ふと客席の方をみると、舞台を照らす照明で、はっきりとは見えないのですが、
舞台を見つめる大勢の客席の人達の気配やらおしゃべりなどが、
意外に間近に感じられます。
ああ、ダンサー達はこういう観客の息遣いを肌で感じながら、
舞台に立っているんだと思うと感無量でした。

長老猫の前まで来ると、客席で見るのより、はるかにデカくて、迫力があります。
長老猫は、なんだ、何か大きい子供が来たなというような顔で、
自分をじろりと見ました(^_^;)
ちょっと遠目からだとわからなかったのですが、
間近で見ると本当に大きいんです。
それに存在感が半端でない。
何も演技していなくとも存在自体が表現しているといいますか。
サイン自体はミミズが這っているみたいで、
何が書いてあるのかわからなかったのですが(^^;)

しかし、この時、ブロードウェイの舞台というものに、
自分の足で直(じか)に立って、
何がしかのものを感じることができたのは、
本当に他には代え難い貴重な体験をしたと思いました。

この時観たブロードウェイの「キャッツ」は、
今も珠(たま)のような宝物として、自分の心の中に収まっています。



それから月日が経ち、もうキャッツを見ることはないだろうと思っていましたが、
ここ1、2年劇団四季が横浜で公演をしており、
仕事の関係で、運良くチケットをいただいたので、
十数年ぶりにキャッツを見に行きました。
横浜のみなとみらい地区というところに専用の劇場を作って、
そこで行われていたのですが、それは立派な劇場でした。




(横浜のキャッツシアター)

自分が今まで見た名古屋公演やブロードウェイの「キャッツ」を思い出し、
非常に楽しみにしていたのですが、
しかし劇が始まり、見ていて少し違和感を感じました。
一人一人のダンスや歌は、必ずしも悪くないんです。
でもなんていうんでしょうか。
劇におけるテンポが今ひとつ悪く、
場面と場面、ダンスとダンスの間の間(ま)がぶつぶつ切れてしまう感じがするんです。
その度に、せっかく湧き上がってきた高揚感が途切れてしまい、
ストーリーの流れに乗って楽しむことができない。

それは前回及びブロードウェイにはなかった、
途中の場面場面でも頻繁に客席に猫達が下りてきて、
セリフなどをいう演出にもあったのかもしれません。

僅かな時間に広い客席に散らばり、セリフや歌をこなさねばならず、
少々余裕がないようにも思われました。
それがために場面によっては、
集中力を欠いてしまっているようにも見受けられました。

名古屋公演の素晴らしさが頭にあった自分には、
この横浜公演は、ややがっかりした出来映えの舞台となってしまいました。

劇団四季「キャッツ」は8000回を越えるロングランを続けており、
日によっては2回公演の日もあり、
モチベーションの維持というのも並大抵ではないかもしれません。

しかし、この日の横浜公演の猫達とブロードウェイの猫達との決定的な違いは、
「キャッツ」という劇の中で、
最高の歌を聴かせ、最高のダンスを見せ、
そしてそれを最高に引き立たせるための演出をするという
自負の差のようにも感じました。

では劇団四季の面々には自負がないのか?
と言われると、少々返答に困ってしまいます。
そういうわけではない…と自分は思います。

劇団四季の自負はブロードウェイのものとは、
もう少し別のところにあるような気がします。
例えばそれは、ミュージカルをなるべく多くの人々に楽しんでもらいたい、
そのために来場者と、なるべく近い距離で触れ合い、見てもらいたい。
1人でも多くの人々とそれを成し遂げたいというところに自負があり、
それに沿った演出が為される。

それに対してブロードウェイは、
鍛え抜いて磨き抜いた自分達の歌やダンスを見てくれ。
といった、自分の持っているもの、身につけたものを
観客に投げかける強烈な主張のようなものがあり、
それに沿った演出が為される。

自分はブロードウェイに少々洗脳されてしまったところがあるので(^_^;)、
そういうスタンスの違いに対応できなかったようにも思います。

そして、それは客側に立ってもまた然りで、
劇団四季の方を好む人もいるでしょうし、
ブロードウェイの方を好む人もいる。
要はスタンスの違い、趣向の違いで、
どちらを否定するとかしないとかの話ではないのです。

上手く説明できているとは思いませんが、
自分の思ったところはそんなところです。

現在、劇団四季は広島で「キャッツ」の公演をしているようです。
ネットで見ると、概ね評判は上々のようです。
http://www.shiki.gr.jp/applause/cats/index.html
劇団四季が、日本で一番実力のある
ミュージカル劇団であることについては、
自分も疑うものではありません。

ですから近隣にお住まいで
「キャッツ」の猫達をライブで見てみたいという方は、
ちょっとのぞいてみられると、よいかもしれません。


この記事を読んで、是非なんらかの形で、
ミュージカル「キャッツ」を見てみたい、
という気持ちになっていただいたら、
一ファンとして本当に嬉しいかぎりです。

最後に、今回記事を書くに当たり、
キャッツの感動を思い出させてくれた映像のダンサーの方々に感謝を込めて
http://www.youtube.com/watch?v=VU8HFvDuLfY