【美術】ゴッホ展6「薔薇」
ゴッホは自分が最も好きな画家のひとりですが、
精神病院に入ってピストル自殺するまでの、最晩年の時期の作品の中には痛々しくて、
思わず目を伏せてしまうようなものもいくつかあります。
「曇り空の下の積み藁」
あれほど明るい空の下、風にそよいで、金色に輝いていた麦の穂が、
ひとかたまりに無雑作に集められて積みわらにされている。
どんよりと曇った空に、カラスが飛び交い、積みわらの周りをぐるぐると回っている。
まるで麦の穂の棺桶のようです。
モネの「積みわら」とはまるで違う、打ち捨てられた孤独感のようなもの。
「カラスの群れ飛ぶ麦畑」
ちなみにゴッホ生涯最後の作品はこちら。
小林秀雄のゴッホの随筆で有名になったものですが、
モチーフはほぼ同じといってよいでしょう。
https://www.xn--mozo-y93c7h.com/entry/2016/10/25/180906
不吉な影が全体を覆っており、得たいの知れぬ不安感が拭えません。
じっと見ていると、胃の中に鉛の塊を飲み込んでしまったような、なんとも重苦しい気分になります。
「サン=レミの療養院の庭」
ゴッホは精神病院に入院しているときも絵を描き続けました。
その作品の一つがこちら。
強烈な色彩もさることながら、視点が定まらないといいますか。
画面全体がべったりとギラギラとしている印象を受けます。
「オリーブの林」
画家の神経が鋭くなりすぎて、全てに反応してしまっているというか、
とにかく全体がギラギラしていて、ぐるぐる目が回るようで、
見ていて落ち着かないんです。
「薔薇」
その中で、この「薔薇」は素晴らしい作品と感じます。
白い美しい薔薇が、淡い緑色の背景に浮き上がって、思わず白い花に目が吸い寄せられます。
清涼にして優美。
画面全体の調和が保たれ、心地よく薔薇の花を楽しむことができます。
しかしながら、ごく僅かではありますが、この作品にも、ある種の歪みのようなものを感じさせるところがあります。
最晩年のゴッホの作品は、この歪みが際立っていて、
何か車酔いのように景色がぐるぐる回ってしまう、そんな印象を強く受けます。
「オリーブを摘む人々」
しかしながら、翻って考えてみると、
普通の人間であれば、調子の良い時や気分が乗っている時には、絵を描こうという気持ちにもなりますが、
心が るぐる回ってしまっているような時にはとても絵を描くような気分にはなれません。
しかしながらゴッホは、どんな時にも、生涯絵を描き続けた。
28歳の時に画家を志して死ぬまでの間の約10年間、
その間に残した作品、油彩900点、素描1100点。
ほとんど絵について考え、描き続ける日々であったといってよいでしょう。
「炎の人」
とゴッホを形容することがあります。
絵画に魅入られたその彼の人生。
絵画というのは、紙や布に色をつけて模様や形を単に描きつけるものではありません。
もっと深く、見た人の人生を変えてしまうような、底知れぬ力を秘めた、そんな存在です。
ゴッホの絵を見ることで、自分はそれに気づかされます。
この記事で、ゴッホ展の記事は終わりです。
読んでいただいてありがとうございました。