らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【ミュージカル】劇団四季 ノートルダムの鐘












今回の「ノートルダムの鐘」は非常に素晴らしかったです。
一言で言いますと、賑やかで楽しいミュージカルでした。
しかし、単に賑やかで楽しいだけでは、2時間30分の上演時間は間延びして、
見るのに飽きてしまいます。
前回数年前に観覧したキャッツがまさにそれで、
賑やかで楽しいのは結構なのですが、
全体の流れが単調で、
まだ終わらないかまだ終わらないかと、
途中何度時計を見たのかわかりませんでした。

しかし、今回の「ノートルダムの鐘」は、上演時間中決して飽きることなく、
ワクワクしながら最後まで見続けることができ、
その舞台の質の高さに感心しました。

冒頭のグレゴリウス聖歌風の合唱から始まり、
登場人物たちのソロやデュエット、 レチタティーヴォ(物語の語り)、
全てがひとつの音楽としてまとまっており、
一つの叙事詩のように流れ、最後まで飽きさせませんでした。





少年のようなコロコロした可愛らしい声のせむし男の青年カジモド 、
ちょっとハスキーで意志が強く色っぽいヒロインのエスメラルダ。
重厚で低い声の厳格な司祭フロロ。
イケメンの隊長フェビュス。
それぞれがそれぞれの役にあった個性的な声で魅せており、

中でも一番のお気に入りは、カジモド、フロロ、フェビュス、
3人の男たちの三重唱(トリプル)。
エスメラルダをめぐって、それぞれの男たちの思いが絡み合い、
それぞれの愛を語り合う見事な音楽となっていました。

そして場面の節目節目で奏でられるノートルダムの鐘の音が、
とてもインパクトあって良かったですね。







ストーリーとしては、やはり1000ページを超える原作のあらすじとは少し違うものの、
原作に沿ったテーマを忠実に再現していたと思います。

それでは原作のテーマとは何か。

嫉妬深い中年男は最初から女性に相手にされない。
ブサメンはどんなに頑張っても友達止まり。
結局イケメンが美女の心をゲットする。

というのは半分冗談ですが笑

やはり、人というものは思いで生きているということ。
泣いたり笑ったり悔しがったり愛したり
そういう心が人を生き生きとさせる。





たとえその思いが実らなかったとしても、懸命に生きて泣いて笑って愛したという心は、
この世でひときわ眩しい輝きを放っています。

人生で一番やってはいけないことは、フロロ司祭がカジモドに言い聞かせていたこと。
お前は世間と関わるとろくなことはない、傷つけられるだけだ、
どうせお前にはできっこない。
だからお前は塔の中で一人じっとしているのが一番安全なのだ。

人と交わって思いを発する事の無い人間というのは、限りなく物に近い存在です。
最初、カジモドはノートルダムの塔の上でひとりぼっちだった頃、
大聖堂の石像達に話しかける日々を送っていました。
しかし、塔を降りて、人と交わることで、
血の通った生きた人間の心を宿すことができた。

最後このミュージカルは、ディズニーアニメのようなハッピーエンドではなく、
原作に近い悲劇的結末に終わります。
エスメラルダは嫉妬に狂うフロロの讒訴により冤罪による火刑に処せられ、
その後、寄り添うようにカジモドも彼女と運命を共にします。

それではカジモドはやはりフロロ司祭の言うように、
ノートルダムの塔の上で独りでじっと過ごして、
遠くから世の中を眺めるだけで一生を終える方がよかったのでしょうか。

いや、人生とは数の多さや量で測るものではありません。
たとえほんの短い間だとしても、
人とふれあい、心の煌めきを内に含んで生きる方が、
遥かに輝きを放った素晴らしい生き方であると感じます。
今回の公演は、自分にそういうものを感じさせてくれるものであったと思います。

最後に、本作品を象徴する劇中のカジモドの歌を添えて。

「陽ざしの中で」
https://youtu.be/q6oe7mjH-go