【美術】高畑勲展３ セロ弾きのゴーシュ
セロ弾きのゴーシュ
オーケストラに所属するチェロ弾きの青年が、どうしても上手く弾くことができず、
仕方なく夜一人で練習に励んでいると、
そこに夜な夜な色々な動物が家に現れ、
一緒に音楽を練習し、音楽に目覚めて行くというお話。
ゴーシュとはフランス語で左利きのことであり、ぶきっちょという意味もある言葉です。
宮沢賢治もクラシック音楽が好きで、自らもチェロを嗜んでいましたが、
我流でどうもうまく弾くことはなかなかできなかったようです。
彼はベートーヴェンの音楽を特に好みましたが、
ベートーベンは耳に疾患があり、それをさとられるのが嫌で、人を避けて、好んで自然の中を散策して、
音楽のインスピレーションを受けたといいます。
そのような諸々の話が合わさって、このセロ弾きのゴーシュという物語が
出来上がったのかもしれないなと感じます。
最初、ゴーシュは一人で、あーでもない、こーでもないと練習しますが、なかなか上手くいきません。
人というものは外から栄養をもらわなければ体が造られないのと同じで、
心も外からインスピレーションをもらわなければ心を造り、豊かにすることができない生き物です。
そのインスピレーションをもらう相手は、人であったり自然であったりするわけですが、
現代の人間は自然から離れて久しく、また人からも離れつつあります。
今の人間はぽつんとひとりぼっちで、自然から離れ、人から離れ、エネルギーを与えられるところがない。
いったい現代の人はどこで心の豊かさを養うのでしょうか？
ゴーシュは夜な夜な現れるいろいろな動物からのコミュニケーションでインスピレーションをもらい、
自らの音楽を豊かにしていくわけですが、
偉大な自然に抱（いだ）かれるように寄り添うことで、
自然から少しずつエネルギーを分けてもらえる。
この宮沢賢治の物語の自然観と高畑勲の自然観とはほぼ合致します。
スタジオジブリの、もののけ姫やとなりのトトロ、 平成狸合戦ぽんぽこなど、
自然を人間の自分勝手に変えてしまうことを戒め、
偉大な自然に抱かれるようにして生きてこそ人間は自然からエネルギーをもらえ、心豊かに生きることができる
というモチーフが随所に垣間見えます。
また、セロ弾きのゴーシュに出てくる猫や、かっこう、子だぬきや子ねずみがそれぞれ個性があってかわいいんです。
宮沢賢治も夜、家でチェロの練習をしている時に、
猫の鳴き声や外の鳥のさえずり、獣の声や天井を行き来するネズミの音などに励まされ、
練習に勤しんだのかもしれませんね。
ただ物語で一番最初に現れる猫はイライラしているゴーシュに当てられ少し気の毒です。
前に読んだ時はランスを飼っていなかったのでピンと来なかったのですが、
今この部分を読むと胸が痛いです（笑）
生意気な猫を懲らしめるためにゴーシュが弾いたインドの虎狩り。
このアニメのために間宮芳生
さんが作曲したものですが、原作のイメージにぴったりです。
こちらの予告編に曲の一部が紹介されています。
激しく弦の鳴り響くのを聴いて猫の毛が全て逆立つシーンがありますが、
猫って弦楽器嫌いですよね。
ランスも弦楽器の曲のCDをかけると、向こうの部屋に行ってしまいます。
ピアノは好きなんですけども。
ところでこの物語、ベートーベンの田園交響曲がモチーフとなっていますが、
このアニメの絵を描いた人は宮沢賢治の原作と田園交響曲をよく見て、背景を描いていると思います。
水墨画のような山紫水明の自然の中でチェロを練習しているゴーシュの姿は、
まさに自然と調和し、自然からインスピレーションを受けて人間が心を豊かにする
高畑勲作品のモチーフにぴったりといえるでしょう。
宮沢賢治が持っていたレコードのベートーベン田園交響曲
Pfitzner conducts Beethoven Symphony No.6 -1st mov.-
セロ弾きのゴーシュ
