らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「ぼくが君の思い出になってあげよう」森田童子 創作秘話







「ぼくが君の思い出になってあげよう」


君はいつか ぼくから離れて
ひとりで 大人になってゆくのさ
ほんの少し 淋しくても 
君は 都会の中で 
ひとりで やってゆけるさ

君が忘れた 砂ぼこりの風が吹く 
この街に ぼくはいる
淋しかったら いつでも 帰っておいで 
ぼくは 待っていてあげよう

年上のぼくが 淋しいと云ったら 
君はこのぼくを 笑うかな
さびれたこの街で もう若くはない 
ぼくは 君の思い出になってあげよう



https://youtu.be/y_n6z55EWSk



森田童子さんが4月にお亡くなりになって、
ネットで彼女に関する資料が出るようになっており、
最近それを興味深く読んだり聞いたりしています。

前回紹介した「ぼくが君の思い出になってあげよう」は、
そのフレーズが新鮮で、とてもインパクトがあり、
寂しさの中に、懐かしさや慈しみ、純真さといったものを感じさせます。

年上の男性が、自分の元を離れて行った年下の男性に語りかける言葉は、
どのような発想から、生まれたのだろうと前から思っていましたが、
最近 YouTubeで、森田童子さんが、
なぜ自分は、きみと僕という言葉をこのように使うのかという話をしたものがアップされており、
それについて訥々と語っている森田さん自身とても新鮮で貴重なのですけれども、
そこで、森田さんは、
ぼくと君というのは、男女の間で取り交わされる言葉としてしか使われて来なかったけれども、
もっと広い関係で、人と人との親しみ、慈しみ、そんなものを表現したかったと述べています。


なるほど歌で語られる男女の恋愛というのは、
多分に一本気で直線的、言ってみれば、シンプルなところがあります。
しかし、「ぼくが君の思い出になってあげよう」の二人の関係は、
愛情、慈しみ、寂しさ、懐かしさなど、そのような男女の恋愛関係に比べると、
ちょっと複雑で屈折したものを感じさせます
それがこの曲を何度聴いても飽きさせない、滋味深さを生み出しているのかもしれません。


なお、森田さんは、
サイモン&ガールファンクの「ニューヨークの少年」という歌が大好きで、
「ぼくが君の思い出になってあげよう」は、それに触発されて書いた曲であると思われます。

 







「ニューヨークの少年」

Tom, get your plane right on time
なあトム、飛行機には乗り遅れるなよ
I know your part'll go fine
君の人生はきっとうまくいく
Fly down to Mexico
メキシコまで飛んで行くそうだね
Do-n-do-d-do-n-do and here I am,
でも、ぼくはここにいる
The only living boy in New York
ニューヨークでひとりぼっちだ

I get the news I need on the weather report
知りたいことなんて何もない
I can gather all the news I need on the weather report
天気予報さえ眺めてればそれで充分さ
Hey, I've got nothing to do today but smile
だって、今日は何もすることがないんだ。微笑みを浮かべているだけ
Do-n-doh-d-doh-n-doh and here I am
トム、ぼくはここにいるよ
The only living boy in New York
ニューヨークでひとりぼっちだ

Half of the time we're gone
いつだって一緒に過ごしてきたけど
But we don't know where,
僕ら、この先どこへ向かうんだろう
And we don't know where
分からないよ

Half of the time we're gone
何でも2人で乗り越えてきたね
But we don't know where,
でも、いまは完全に
And we don't know where
自分たちの行き先を見失っている

Tom, get your plane right on time
トム、飛行機には乗り遅れるなよ
I know that you've been eager to fly now
君はずっと自由になりたがっていた
Hey, ?let your honesty shine, shine, shine now
今こそ、ありのままに輝く時だ
Do-n-doh-d-doh-n-doh like it shines on me
かつて僕を照らしてくれたようにね
The only living boy in New York
僕はいまニューヨークにひとりぼっちだ
The only living boy in New York
ひとりぼっちさ

Here I am
ここにいる
Here I am
僕はここにいる

https://youtu.be/jEZcnXuzPck



「ニューヨークの少年」を聞きますと、なるほどテーマがよく似ています。
と言うか曲調は違えど、ほぼ同じ内容の事を歌っているとも言えます。

では、「ぼくが君の思い出になってあげよう」は、「ニューヨークの少年」のコピーにすぎないのか。

いや、森田童子さんの作品は、「ニューヨークの少年」にインスパイアされて
生まれたオリジナルの作品と言うべきでしょう。

コピーとオリジナルの違いとは何かといいますと、
それは、その作品自体が持っている力と言いましょうか。
コピーというのは、単なるオリジナルの劣化版ですから、
コピーが良いと感じても、そのオリジナルに触れてしまえば、
おのずから興味がオリジナルに移っていってしまうものです。
しかし、森田さんの作品は森田さんの作品で、
サイモン&ガールファンクはサイモン&ガールファンクで、
それぞれ興味深く聴くことができるものであり、
それぞれ固有のエネルギーを発する作品と感じざるを得ません。

二つを聴き比べますと、サイモン&ガールファンクの曲の方は、
二人で過ごしてきた時の懐かしさ、友への励ましの中に、
語り手の寂しさ、切なさが見え隠れするという感じですが、
森田童子さんの方は、孤独、寂しさ、切なさの中に、
懐かしさや友への思いやりといったものが見え隠れしているように感じます。

それは、やはり、先に死に逝く年上の人間が残されたという、
語り手の立ち位置がかもし出しているのかもしれません。