らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「雪に埋もれた話」土田耕平







これは雪女の逆バージョンのような物語です。

山に柴刈りにきたお秋さん。
突然、山で雪に降られ、あっという間に胸のあたりまで埋もれてしまいます。
もう助からないと気を失いかけた瞬間、どこからか自分を呼ぶ声がします。

ふと気付くと、大きな洞穴の中に立っており、そこに現れた不思議な大男。

この大男、余計なことは一切言いません。
「柴しばをおろしな。」
「ここへくべな。」
ぶっきらぼうな大男の言うがまま、
お秋さんは火を絶やさぬように柴をくべ続けます。

柴をくべ終わり、火が絶えると、大男は言います。
「御苦労々々々。もうかへつてもよろしい。」

お秋さんが立ち上がって洞の外へ出て見ると、
雪の洞穴はいつか消えてしまつて、
あちこちに梅の花が咲き、うぐひすや目白の声もきこえ、春になっていた。
そして、二度と大男と会うことはなかった。

という、ちょっと浦島太郎的な不思議なエンディングで、物語は終わります。


雪女の場合と違いまして、
後に、大男がなにくわぬ顔で人間の姿で現れ、お秋さんに交際を迫った。
などというストーリーも一切なく、本当にそれっきりとなっています。


お秋さん的にも、いつぞや、山で雪に埋もれて死にそうになった時、
親切な大男に助けてもらった不思議な体験をした。
そんな記憶しか残らないでしょう。


それではこの大男は本当に親切心だけのナイスガイだったのでしょうか。

女性の方に申し上げたいのですが、
こういう場合に、ただの親切だけということはまずありません(^_^;)
程度の差こそあれ、そのほとんどが、大なり小なりの下心をもって接しているものです(^_^;)

二人きりで火に当たっていた時の描写、

「お秋さんは火を焚きながら時々顔をあげて見ますと、
大男はいつも目をつぶつたままでした。
考え事をしてゐるのか、それとも眠つてゐるのか分りませんでした。」

これは、どうやって話を切り出そうか迷っていて時間切れになったに過ぎません(笑)


では、逆に、お秋さん的には、この大男にどのような感情をもっていたのでしょうか。

「大男を怖いと思ふ心は、全く消えてゐました。
けれどこのまま洞の中に一緒に居ようとは思ひませんでした。」

命を助けてもらって親切で優しいと思ったけど、タイプではありませんでした(笑)

女性というのは好きでない男性には残酷なものです。
しかし、ごくごく普通の、女性の正直な気持ちだと思います。


結局、お秋さんと大男はそれっきりの縁だったのですが、
一体大男はどうしていたのでしょう。

思うに、大男は、家に帰って、しまったなあ~、あの時がラストチャンスだったのに。
もうひと押しすれば、あるいは・・と
布団にでもくるまって悶々としていたことでしょう。
8割方の男はそんなもんです(笑)

今頃、のこのこ会いに行ったら失笑されるのではと、
失敗を畏れて会いに出ることはまずありません。
ほとんどの男は、チャンスの芽をここで完全に潰します。

肉食女子の雪女に対し、草食男子の山男。
この構図は現代だけでなく、昔から存在したのです。

たぶん大男、夏くらいまでは家で悶々としていたと思います(笑)


他にもツッコミどころはいくつかありますが、
まあやめておきましょう。



「雪に埋もれた話」土田耕平
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