らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【映画(アニメラマ)】クレオパトラ



 
 
この作品もだらだらと過ごした年末に(^_^;)、鑑賞したもののひとつです。

虫プロダクション制作の日本のSFアニメ映画。1970年公開。
原案・構成・監督 手塚治虫
http://tezukaosamu.net/jp/anime/8.html


1970年といえば、手塚治虫率いる虫プロの、もっとも忙しい時代だったと思いますが、
その中で、このような作品を制作していたとは新鮮な驚きでした。

大人のために制作されたアニメのドラマ、アニメラマの作品「クレオパトラ」。

随所に、そのパロディも見受けられることから、
おそらくエリザベス・テーラー主演の映画「クレオパトラ」(1963)に影響を受けているようにも思われますが
そこはさすがに手塚治虫。
手塚治虫テイストで独自のクレオパトラの世界を創り出しています。

手塚治虫の作品というのは、宇宙が舞台だとしても、未来が舞台だとしても、
現代が舞台だとしても、古代が舞台だとしても、
どんな設定にせよ、人間というものがしっかりと描かれている。そのように感じます。
後のスタジオ・ジブリのアニメに比べると、
記号といってもよいくらいの単純な絵ですが、
手塚作品独特の小気味良さもあり、ほぼ2時間夢中になってみてしまいます。

この作品、歴史スぺクタルというよりも、
ひとりの女性としてのクレオパトラに焦点を絞って創られているように感じます。
ですから、シーザー、アントニウス、オクタビアヌスといった歴史上の偉人たちも、
クレオパトラに彩りを添える存在にデフォルメされており、
いわゆる史実通りというわけではありません。
しかし、そのようなシンプルな構成ゆえに、
目を散らさずに集中して見入ってしまうのかもしれません。

エジプトの征服者シーザーの刺客として送り込まれたクレオパトラ。
しかし、シーザーの子シーザリオンを産み、
ひとりの女性としての情と、エジプトの女王としての立場に挟まれ、
心は揺れ動き、悩みます。
そして、その後のシーザーの暗殺と、アントニウスとの出会い。そして別れ。
そのあたりのクレオパトラの心の揺れ動きが、非常にテンポよく描かれています。


あと、手塚治虫のアニメ作品に欠かすべからざる、ギャグユーモアの要素。

美しいクレオパトラが、麻袋から現れた時にシーザーが思わず吐いたセリフ、
「アッと驚く為五郎!」
そう、シーザーの声はハナ肇さんがやっているんですね。
ハナさんのキャラクターからはちょっと意外ですが(笑)、
二枚目で、とても威厳のある声です。

シーザーが暗殺されるシーンは、歌舞伎「忠臣蔵」松の廊下の場面をパロディにしたもの。
「ブルータス、お前もか。」の歴史上の名セリフが、
歌舞伎の決めのセリフにぴったりくるとは思いませんでした(^_^;)

中にはふざけ過ぎという意見もあるようですが、
自分は、これもありだと思います。

漫画はいかなる題材であっても面白く、クスッと笑えなければいけない。
というようなことを手塚治虫は言ったそうですが、
自分もその意見に好意的な立場です。


大人のためのアニメということで、お色気シーンもふんだんにありますが、
決してエログロではありません。
多くは、クスッと笑えるユーモアとしてのお色気です。
一番笑ったのは、シーザー亡き後、アントニウスとクレオパトラの閨のシーン。
このシーンをここで詳しく述べるのは野暮というものですので(笑)
どうぞ作品をご覧になってみてください。

そうそう、クレオパトラとシーザーと初めて出会うシーン。
この歴史上屈指の名場面の艶っぽさは、エリザベス・テーラーのそれをはるかに凌駕しています。

最後、史実通り、クレオパトラはローマ軍に捕らえられる直前に、
エジプトの女王としての威厳を保ち、毒蛇に身を任せて命を絶ちます。
確かにこれは女王クレオパトラにとって悲劇です。
が、しかし、それは片面的な見方であって、
ひとりの女性としては、やっと重い軛(くびき)から解き放たれたものともいえます。

そのあたりのひとりの女性の一大叙事詩のようなものが、
見事に、手抜かりなく描かれているのはさすがです。
当時の虫プロは殺人的忙しさであり、
いくつかの作品を並行して手掛けたものの中のひとつにもかかわらずです。

この「クレオパトラ」、今から50年近く前の作品になりますが、
その中のクレオパトラは、時の流れに褪せることなく、
いまだに妖しい美しさを放っているように、自分は感じました。