【美術】高畑勲展4 母を訪ねて三千里
母を訪ねて三千里
自分が今回の美術展で感じた高畑勲さんのモチーフ。
一緒にいたいと思う人と一緒にいること。
こういう素朴ともシンプルともいえることに、人間の最上の幸せがある。
母を訪ねて三千里は、お母さんと一緒にいたいと思っている小さな男の子が、
イタリアからはるばるアルゼンチンに旅するお話です。
お母さんはアルゼンチンに出稼ぎに行って音信不通となってしまうわけですが、
物語の舞台の時代のイタリアは不景気で、大量の移民や出稼ぎが南北アメリカ大陸に渡ったんですね。
アメリカ合衆国に行った人々は、アル・カポネになったり、
ウエストサイドストーリーのジェット団になったりしたわけですが(笑)
同じように南米にも渡っていたわけです。
イタリアとは全く異なる自然である、荒涼としたアルゼンチンのパンパ(草原)に1人立ち尽くすマルコ。
主題歌がストーリーの雰囲気をとてもよく表しています。
お母さんと一緒にいたいとはるばるイタリアから探しに行くマルコの強い情熱は、
周りの人々の心を動かします。
その中でも印象的なのが、お金を全て盗られてしまったマルコが、
イタリア人の出稼ぎの人々が集まる酒場に連れていかれ、皆からカンパを受けるシーン。
出稼ぎに来ているくらいですから、裕福なはずはないのですが、
マルコの強い意志に共鳴するといいますか、お母さんと一緒にいたいという思いは、独り善がりな気持ちじゃないんですね、人間の根源的な感情なんだと思います。
だから、みんなが応援したい、力になりたいと思う。
この物語の自然は、行く手を遮る大海の荒波だったり、果てしなく続くパンパ(草原)だったり、
マルコの住んでいたイタリアのジェノバのように、
人々がゴミゴミしたところで肩を寄せ合うように生活している情景とは対照的で、
頼れる優しい存在ではない、突き放され感すらするのですが、
その大自然すら、ものともせずに貫く純粋な強い意志。
原作は短編であるため、叙述が薄いのですが、
アニメは原作に沿いながら、その行間を、非常に情緒豊かに厚みを加えて仕上げており、素晴らしい作品であったと思います。
誤解をおそれずに言えば、原作を超えたアニメーション作品といえるでしょう。
そして、ある意味、これは男の子をもつお母さん殺しのアニメといえます(笑)
第1話が無料で配信されていますが、
物語の導入部分が、とても情緒豊かに表現されており、
またマルコが母親と別れなければならない話の伏線作りも、本当に上手いなと思います。
太陽の光の輝き、風の気持ちよさ、どこまでも青い空、生活感あふれるジェノバの街の様子など、
後のジブリ作品に見られるような自然の美しさなども描かれており、
ご覧になると、作品の雰囲気もおおよそわかりますので、
興味ある方はぜひ。