らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「こぞうさんのおきょう」新美南吉

 

スタジオジブリに「となりのトトロ」という作品があります。

制作されて、すでに30年近くが経とうとしていますが、
テレビで放映するたびに高視聴率を記録し、いまだ高い人気を保っています。

どういうストーリーかといいますと、
一見たわいないといいますか、とりとめもないといいますか、
森の不思議な精霊のような生き物と少女のふれ合い、心の交流を描いた物語というところでしょうか。
比較的単純なストーリーなんですが、筋立てを明快に説明するのは意外に難しい作品です。

自分は、「となりのトトロ」については、筋立て云々というよりは、
例えて言うならば、人や自然の優しさというようなものを
めいっぱい詰め込んだ果物かごのような作品ではないかと感じます。

つまり、それに接する者は、難しいことをいちいち考えずとも、
そのかごに盛られたものの心地好い香りや味覚をただ存分に感じて、味わえばよい。


今回の新美南吉「こぞうさんのおきょう」もそのような作品に思います。

やれ、こぞうさんが途中寄り道したのはよくないとか、
いや、遊びに誘ったうさぎの方が悪いとか、
ぞうさんはお経を忘れたことを誤魔化すべきではなかったとか、
そのようなことをいちいち論ずるのは野暮なことで、
和尚さんの代わりの大事な法事なのに、
思わずうさぎの遊びの誘いに乗ってしまったこぞうさんのこどもらしい愛らしさ、
お経を忘れてしまって、思わず口にしたこぞうさんのつばきの歌の可愛らしさ、
それを聞いた大人たちの、びっくりした、しかし次第に思わず顔がほころんでゆく様子。

法事という辛気臭い場が、冬の凍った空気から、
訪れた春の暖かい日差しによって、一気にぱあっと明るくなったような雰囲気。


人の優しさとはどのようなものであるか。と、問われれば、
春の空気のようにおだやかで、のんびりと愛らしく、
全てをつつみこむ温かさとおおらかさをもち、
人々を自然と笑顔に、ほころばせるようなもの。

作者は、このとても短い作品の中で、このようなメッセージを発しているようにも感じます。






むこうの ほそみち

ぼたんが さいた

さいた さいた

ぼたんが さいた
 
 








なお、最近新たに読んでくださる方が増えましたので、再告知ですが、
当ブログの文学作品は、基本、青空文庫に収録されているものを取り上げております。
ですから、ぜひ、作品そのものに触れていただければと思います。