らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「雪の夜の話」太宰治

 

先週、横浜にも雪が降りました。
そこで雪を題名にもつ作品を何か読んでみようと思い、
目に留まったのが、この太宰治の小説。

へえー、太宰治、こんな作品も書いていたんだと、読み始めると、
何かちょっと文体の口調に妙な違和感があります。
なんといいますか、
男女(おとこおんな)のような、少々気色悪いといったら、太宰治に申し訳ないのですが、
女生徒なども女性の一人称で綴られている作品ですが、
それにしても、この作品の言い回しはちょっと気になります。

実は、この作品、「少女の友」という、明治末から戦後の半世紀にかけて、
十代の少女たちに親しまれてきた小説雑誌に掲載されたもので、
当時かなり人気があった雑誌であったようです。
作家田辺聖子さんも「少女の友」の大ファンだったことを述懐しています。

 

 
 

太宰治も主人公を十代の少女として、読者の少女達と同年代に設定し、
感情移入しやすいよう創作したのかもしれません。

しかし、太宰治をもってしても、三十代後半の男が、十代の少女を演ずるのは、
なかなか難しいものがある。
自分は同じ年代の男性としてそれを痛感するところがあります(^_^;)
自分も創作する時に感じますが、十代の少女の感性みたいなものが、
いまひとつわからない、不可解ところがある。
姉か妹でもいれば、また別かもしれませんが、
まだ動物の方が心がシンクロするような気がします(笑)

話反れましたが、この物語は、
兄と兄嫁と三人暮らしの少女が、赤ちゃんを身ごもった兄嫁のために、
人間は美しい風景を、その瞳の中にそのまま蓄えることができるという話を信じて、
兄嫁のために美しい真っ白な雪景色を目に焼きつけて見せようとする。
という、まことに乙女チックな、
夢をかきてたてる、読者の少女たちが喜びそうなストーリーになっています。

この主人公の少女に、いちいちつまらないひねくれたツッコミを入れるのが、
少しお変人の小説家で、もう四十ちかくなるのにちっとも有名でない、いつも貧乏で、
からだ工合が悪いと言って寝たり起きたり、そのくせ口だけは達者な兄なわけですが、
まさにこれは作者太宰治そのものがモデルでして、
大人的にはこの兄の所為が非常に笑えるといいますか、
少々自虐的な描き方に苦笑い、太宰ファンの方々にとっては、
思わずニヤリとする、というところでしょうか。

ところで、この作品、当時の少女ウケはどうだったのでしょうか。
ちょっと感想を聞いてみたいものです。
 
それにしても戦争も押し迫ってきた昭和19年に
このような少女向けの雑誌が発行されていたというのは、
自分にとって、ちょっと驚きでした。
 
 
 
 
青空文庫「雪の夜の話」太宰治