らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【人物列伝】31 マイケル・チャン

 
 
 
 

人生において、誰しも実在、架空を問わず、
師匠と呼ぶべき人物が何人かはいるものです。
自分的には、スポーツ関係であれば、
漫画「キャプテン」の谷口くん、そして今回紹介するテニスプレイヤーのマイケル・チャン選手。

自分がチャン選手を知ったのは、1989年の全仏オープンでのことでした。
当時の男子はレンドル、ベッカー、エドベリなど長身でパワーあふれるプレイヤーの全盛期。

そこに突如としてデビューしたマイケル・チャン選手。
当時、17歳の台湾系米国人の選手で、
男子テニス選手としては175センチと小柄な選手でした。
スタイルとしてはベースラインで粘り強くボールを拾い、
相手に隙や乱れがあらばそれを逃さず攻撃する、
サッカーでいえば堅守カウンター戦法型とでもいいましょうか。

自分がテレビでチャン選手を初めて見たのは、4回戦のレンドル戦。
当時、レンドルは世界ランキング1位で、全盛期には勝率9割を誇り、
時速200キロを超える強烈なサーブはパワーテニスプレイヤーとして一時代を築き、
レンドル最強説を唱える人もあるくらいです。



2セットダウンから後がないチャン選手、
僅かな相手の隙、乱れをついて、じりじりっとレンドルを追い詰め始めました。
レンドルにとって1セット取られるくらいは、
休憩くらいに考えていたのかもしれませんが、
一度変わり始めた流れを再び変えるのは、
彼が思っている以上に困難なものになっていました。
それだけチャン選手が隙なく彼を追い詰めていたともいえます。

そして最終セット。
4時間を超える長い試合に、40℃近いコート上の暑さ、
思うように決まらない自分のプレーにじりじりしていたレンドルは、
その表情にも焦りと苛立ちが現れ始めました。
その時、マイケル・チャン選手が繰り出したのが、
子供がよくするアンダーサーブ。
野球で例えれば、山なりの超スローボールとでいいますか。
これでレンドルは完全にリズムを狂わされ、
チャン選手は一気に試合を押し切ったのです。
https://www.youtube.com/watch?v=T9_smUdMqI4

その強靭なメンタルにクールな頭脳。
獲物を狙うような爛々と輝く眼光など、
自分は一気に惹きつけられました。


そして勝ち進んで迎えた決勝の相手は、
「貴公子」の異名を取るステファン・エドベリ



彼もレンドルに勝るとも劣らない強豪で、サーブ・アンド・ボレーの名手でした。
この試合もレンドル戦と同じことがいえます。
長時間に渡る試合に、40℃近いコート上の暑さ、
忍んで忍んでチャンスを待ち、粘りに粘って球を拾い、
走り回っていたチャン選手の靴下は、クレイコートの土で真っ赤でした。

最終セット、疲労困憊のエドベリが、最後の力を振り絞ってネットに出たところを、
ふわりと浮かぶロブでかわすプレーなど何回見てもしびれます(下の映像7:55あたり)。

もっと決勝について述べたいところですが、
楽家は音楽で自分を語り、画家は絵画で自分を語るように、
スポーツ選手はプレーで自分を語るものです。
ですからテニスをご存知の方もそうでない方も、
ぜひその時のプレーを見て何かを感じていただけたらと思うのです。
https://www.youtube.com/watch?v=8uAelr2GHBk&list=PL7F276E385450BF38&index=12

ちなみにこの決勝戦、ビデオテープに録画していたのですが、
何十回も見て擦り切れてしまいダメにしてしまいました(^_^;)
それほど下手な映画よりも素晴らしいドラマがあります。



今回全米大会で錦織圭選手が、
日本人として初めてグランドスラム大会で決勝に進出しました。
そのコーチとして傍らにいたのがマイケル・チャンでした。

どんなに素晴らしい超人的なプレイヤーでも、
いずれ衰え敗れる時が来るものです。
しかし、それを受け継ぐ者と出会い、自らが得たものを受け渡すことで、
自分が得てきたものが、自らの肉体と共に朽ち果てることなく
新しい命を宿すことができる。
なんと素晴らしいことではありませんか。





当時、全仏オープンの番組のオープニング曲はヴィヴァルディ「四季」の夏でした。
https://www.youtube.com/watch?v=4hvN0X92K4k
プレイヤーの高揚感や観客の興奮の高まりなど非常によくマッチしていて、
今でもこの曲を聴きますと、その時の空気を思い出すことがあります。