らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「狼の怪」田中貢太郎

 
 
今、子ども達の間では妖怪ウォッチなるものが大流行しているとか。
そこで今回は、それに触発され、青空文庫に何か妖怪ものがないか探してみたところ、
いくつか発見しました。
今日の記事は、その中のひとつ、田中貢太郎「狼の怪」。

なんでも中国の化け物、妖怪話の類をベースにしているもののようです。

身よりのない貧しい一人暮らしの若い猟師の章(しょう)は、
獲物を追って山深くに入り、疲れ果てて、山でうたた寝をしてしまいます。
そこで首筋をペロッとされた感触を感じて、
目を覚ますと美しい若い女が彼の目の前に立っていました。

「深い山奥」「何かに舐められた感触」「若い美しい女」というキーワードが揃ったところで、
本来かなり怪しいと疑わねばならないはずなのですが、
日本に限らず男ってなんでこうも美しい若い女に弱いんでしょうか。
彼も微かに怪しいと感じながらも、女と話が弾み、意気投合します。

そこに27歳のお姉さま的美女、自称乳母も現れ、
若い女二人だけが暮らしている家へ、
猟師の男は、乞われるがままに、同居生活が始まるのです…

ここまでくると、何かエロティックホラー的展開を予感させるものがありますが、
残念ながらそういう感じにはなりません(^_^;)

無邪気なあけすけな二人の若い女達の振る舞いに、
時折奇妙なものに感じながら
たぶん…まあ美人だからいいやという気持ちで、共同生活を続ける猟師の男(^_^;)

ネタバレしてしまうと、この二人の美女は、狼が人間に化けた妖怪なのですが、
一緒に暮らしているうちに、
女二人ではどうしようも心細いので…と切り出したので、
お嬢様の婿になってくださいとストレートに言うと思いきや、
お友達になってあげてくださいと、まずはお友達からの申し出から。

なんと奥ゆかしい狼ではありませんか(^_^;)

この奥ゆかしい心が通じたのか、
猟師の若い男はもう大乗り気で、お友達になることを承諾します

「深い山奥」「無邪気に肉を食らう女」「(狼のような)面長の顔」「男に黙って毎日二人でこっそり出かける」
というようなマイナス要素は全部すっ飛ばしてしまっています(^_^;)

そんな二匹と一人の和気あいあいとした毎日の中で、
ある日、男は、女達が昼間出かける道に狼が出るのを心配して、
その道すがらに毒の肉を仕掛け、狼から女達を守ってやろうとします。

しかし、これが痛恨の小さな親切大きなお世話だったのです(-.-;)

女に化身していた二匹の狼は、知らずに毒入りの肉を食べてしまうのです。

女達の帰りが遅いのを探しにいった男は、
着物を着た狼が二匹死んでいるのをみて
その全てを悟るというオチなのですが、
もし女達と男の共同生活が、ずっと続いていたらどうなっていただろうかと思います。

日本の怪談であれば、雪女の物語のように、
いずれは結ばれ、その間に子をなし、
生涯人間の姿で一生を全うするという展開なのかなと思いますが、
中国ではどうなのでしょう。
中国は大陸なだけあってワイルドな妖怪も多いですし、
正体がバレたら襲って食べてしまったかもしれませんね。

そうすると男は命拾いしたことになりますが、
手放しによかったよかったとは必ずしも言い切れない、
無邪気な美しい女達との生活がふと心を横切る瞬間があるといいますか、
狼の化身の女達に一抹の憐れみと惜別の念を感じ得ない部分があります。

こういう感想をもつのは、自分も猟師の彼と同じで、
若い美しい女の毒に当てられているからでしょうか(^_^;)