らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【絵画】「初夏の夕」上村松園

 
 

上村松園は、日本人であれば一度はその作品を目にしているであろう
女流日本画家の第一人者です。
彼女は生涯、女性としての美というものを追究し続けた画家で、
以前、彼女の代表作である「序の舞」の記事などを書いたこともあります。

そして、今回の作品はこの季節にふさわしい作品「初夏の夕」。
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涼やかな表情で蛍を見遣る和風美人。
一見、たわいない夏の風物詩の1コマを描いたものに見えますが、
実は、松園は蛍を題材とした作品をいくつか残しており、
この作品は、それらの作品とはちょっと違うところがあるように感じます。
 






こちらの2つの作品は、夏の涼を愉しむがごとき雰囲気を醸し出し、
全体的に艶やかな感じであるのに対し、
今回の作品は、
そのような絵全体から感じる愉しさ、艶やかさのようなものは抑えられ、
すっきりとした印象の中に、
夏の夜の虚空をゆらゆら飛ぶ蛍の光を目に追って、
じつと見つめている女性の視線に焦点が絞られているように感じられます。

実は、上村松園は、この作品を描いてしばらくしてこの世を去りました。
この「初夏の夕」は絵に生涯を傾けてきた彼女にとっての絶筆となります。

これを描いた時、松園は既に病に侵されており、
絵の女性は、ゆらゆらと宙を舞う生命(いのち)の光の行く末を、
じつと見つめている松園そのものの姿だったのかもしれません。


しかしながら、この絵には、これが最期の作品になるかもしれないという気負いや、
病による筆の乱れのようなものはいささかも見受けられません。
凛とした端正な和風女性の表情に、着物の着こなしなど、
いかんなく上村松園の細緻な筆が発揮されています。

また、この作品を描いた時期は、いわゆる戦後直後の混乱期で、
今までの価値観がひっくり返り、
誰もが今までの自己の信念を疑い、これから進むべき道に迷い、
心が揺れ動いていた時代です。

しかし、松園は、この絵の女性のように、静かにひとつの対象をじつと見据え、
目を反らすことなく、弛むことなく、乱れることなく、
凛として、最後まで自己の信ずるものを絵に描き続け、
生涯それを貫き通しました。


そして昭和24年8月27日、
蛍もいつのまにか姿を消し、夏も終わろうとするこの季節に
上村松園は亡くなりました。享年74歳。
 
 







絵を描く晩年の上村松園

 
 http://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/10996236.html
上村松園に関する以前書いた記事です。
興味ある方はよろしかったらご覧になってみてください。