らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【万葉集2014】1 うましものいづくも飽かじを

 
 

うましもの
いづくも飽かじを
坂門(さかと)らが
角(つの)のふくれに
しぐひあひにけむ


児部女王(こべのおおきみ)


良いものは
どこでも飽きられないのに
何だってまた
坂門の家のあの子は
角の家の醜男(ぶおとこ)なんかと
結婚してしまったのだろう



久しぶりの万葉集のシリーズです。
万葉集の特徴は、何気ない人生の1コマの写実にあると自分は思っています。
この歌も、素晴らしい絶景を詠むでもない、感動的な心情をダイナミックに詠うでもない、
日常のごく些細な、ふと感じたことを書き留めたようなもの。
現代でいえばネットのツィート(つぶやき)に似ているといえるかもしれません。

こんなので和歌になるの?
と、驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、
正岡子規は、このような肩肘を張らない
素朴な心のゆらぎともいうような小さな心情を歌に詠むことを是とし、
仰々しく技巧や修辞で歌を形作ることを忌み嫌いました。
(参考記事)http://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/3905549.html

さて、今回紹介した歌、年頃の若い女性が、同年代の知り合いの、美人で評判の女性が、
身分の低い容姿のよろしくない男性と結婚したことを、揶揄したようなものとなっています。

あんな美人な子がなんで?!という驚きでもあり、
スカ掴んじゃったんじゃないのという蔑みでもあり、
どうしてなのか理由を知りたいという好奇心でもあり、
恋愛、結婚に対する女性の、いろいろなものが入り混じった心情が伝わってきます。

どちらも身分の低い貴族の家の女性ですが、
その生涯は伝わっておらず、
その後、坂門の家の美人の女性と醜男(ぶおとこ)との結婚生活が
上手くいって最後まで添い遂げたのか、
詠み手の児部女王がイケメンの身分の高い男性をゲットしたのか
知るよしもありません。

しかし、この歌、本当に率直に、このニュースに触れた際の、
自分のファーストインパクトの気持ちを詠んでおり、
ダイレクトにその心情が伝わってきます。
千年前の昔に詠まれた歌が、
まるで現代のカフェでちらっと女性の話を小耳に挟んでしまったような、
生き生きした息遣いみたいなものを感じるところがあります。

子規は、技巧や修辞というテクニックに拘(こだわ)ることが、
本来の心の形を歪め、歌に詠んだ心情が伝わりにくくなってしまうと思い、
写実ということにこだわったのだと感じます。


しかしながら、一般ではだめんずと言われるような男性であっても、
他の女性には見い出せない価値をその男性に認め、
その人と一緒になれるというのは、ある意味、大変幸せなことなのかもしれませんね。
万葉の世から、女性は意外にマニアが多かったんだと思います(^_^;)





画像は「だめんず・うぉ~か~」より