らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「快走」岡本かの子

 
 

今年も巡ってまいりましたセンター試験の季節。
受験生の皆さんはお疲れ様でした。
自分も文学のブログを運営している威信?にかけて、
今年も懲りずに小説の問題に取り組んでみました。

今年の出題は岡本かのこ「快走」という作品。
昨年と同じく青空文庫収録のもので、小説全文が問題文となっています。

さて、作者の「岡本かのこ」って誰?とおっしゃるかもしれません。
実はこの人のお母さんなんです。




そう、「芸術は爆発だ」の芸術家岡本太郎さんのご母堂で、
お顔はこんな人です。




写真からだけですと、林真理子さんのお母さんに見えなくもないですが(^_^;)


女学校を卒業して以来、
家族の繕いものなどして日柄過ごす家事手伝いの主人公の道子は、
そんな縮こまった毎日の生活に鬱々として、
冬晴れの或る夕方、誰もいない多摩川の堤防にふらりと出る。
そこで、ふいに走ってみたい衝動にかられ、
下駄を脱いで着物の裾をまくり上げ、思いっきりまっしぐらに駆ける道子。
溌剌とした活きている感じを全身で感じた彼女は、
それ以来、月明かりの中の堤防の上での駆足(かけあし)が、家族には秘密の日課となるのだが…
というような始まりの作品です。

この作品は、その一見突拍子もない主人公の行動が巻き起こす
彼女の家族模様を描いたものなのですが、
なんとなくNHKの朝の連ドラに出てきそうなシチュエーションではあります。

戦前の、女性には少々窮屈な社会の中で、
エネルギーにあふれて何かしてみたいと
悶々としている女学校上がりの若い主人公に、
憎まれ口を叩きながらも実は妹思いの兄、
古風で娘には厳しいものの、とても娘を愛している母に、
その厳しい母をなだめる優しい理解力のある父。

この作品に強いインパクトあるメッセージ性というようなものはあまり感じないものの、
登場人物の挙動がなんとなく気になるといいますか、
なにか親しい御近所さんになったような、ほんわりとした雰囲気を読む者に感じさせます。

年頃の娘が、夜、長い時間帰って来ないのを心配した母親に言いつけられ、
妹道子の後をつける兄の陸郎。
逢い引きでもしているのではと、
彼女宛てに来た手紙をこっそりと二人で音読する両親。
そこで初めて娘が毎晩堤防を早駆けしているのを知るのですが、
こっそりと娘の後をつけてその様子を目の当たりにする父と母。

ちょっとコミカルな、朝の連ドラ的エピソードてんこもりです。

そんなてんこもりな物語を、僅かな時間で読んで問題を解かないといけない
受験生の方々は本当にご苦労様でしたが、
昨年の煮え切らない主人公の挙動に比べれば、
その行動はわりかし明快で、問題は解き易かったのではないでしょうか。

とはいっても、それはあくまでリラックスしてコーヒーを飲みながら問題を解いた自分の話。
本番の緊張感の中では文章が長く(約5000字で原稿用紙12枚分!)
なかなか思うように題意が読み取れなかったかもしれません。

後で、受験生はどんな感想を持ったのかネットを検索していましたら、
「おほほほほほほほほの作者岡本かの子は、
芸術は爆発だの岡本太郎のお母様で、受験生を爆発させないか心配。」
というコメントを見て、ちょっと笑ってしまいました。

試験などで緊張して、真剣に考えている時って、
ひょんなことで目についた言葉が頭から離れなくなって、
ぐるぐる回ってしまうことがあるんですよね(^_^;)

なお、このネタをお知りになりたい方は、
どうぞこの問題文もしくは青空文庫をお読みになってみてください。
http://www.toshin.com/center/2014/sp/kokugo_mondai_2.html

なお試験問題ということを離れても、
「快走」の題名通り、読む者に爽やかなそよ風がさっと頬をなでるような
心地よい家族愛感じる作品に仕上がっています。
あと個人的には、この後の展開などを勝手に想像したりして、
それも楽しいものがありますね。
 

岡本かの子 快走


 



(参考記事)
昨年のセンター試験問題
「地球儀」牧野信一
 http://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/10965167.html
一昨年のセンター試験問題
「たま虫を見る」井伏鱒二