らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「残された人々」アレキサンダー・ケイ(未来少年コナン原作)



 
2013年、今年の夏、
引退する宮崎駿監督最後の作品である「風立ちぬ」が話題となりましたが、
1978年、NHKで放映されたアニメ「未来少年コナン」は宮崎駿初監督作品。
アレキサンダー・ケイ「残された人々」はその原作となります。


近未来において、核兵器をはるかに上回る威力のある
超磁力兵器が使用された最終戦争が勃発。
人類は大半が死滅し、それまで築かれてきた高度な文明のほとんどが失われてしまった…

というストーリー設定は同じなのですが、
実は、原作とアニメではその内容がかなり異なります。

原作では、コナンは無人島で独りで生きてきた金髪の少年であり、
ひょんなことで、僅かな生き残りの人々が生きる「新社会」の都市に送られます。
そこでは僅かに残った人々を政府が完全に管理下におき、
一挙手一投足を統制している社会であり、
コナンは、そこに住む幼なじみのラナを救い出すための戦いが始まるのだった…
というところなんですが、全体的にインドアな印象の地味な作品です。

原作は1970年東西冷戦の世界情勢下で書かれたものであり、
「新社会」は、当時のソ連を代表する東側の管理統制社会を象徴しており、
それに対する批判が含まれていると言われ、
テーマ的、雰囲気的にはジョージ・オーウェルの「1984年」に似たところがあります。

それに対して、宮崎駿監督制作のアニメは、
そのような特定の政治体制の批判という枠を飛び越えて、
自然や他の人々を、自らの意のままに操ろうとする人間達の小狡(ずる)い悪巧みを、
大らかな自然が圧倒的に凌駕するという、
いわば自然賛歌ともいうべき作品になっています。

主人公コナンは、その賛歌すべき自然の申し子ともいうべき自然児であり、
人並み外れた驚異的な身体能力で活躍し、
管理統制社会の支配者の小賢(こざか)しい策略を、
常にその予測を上回る動きで打ち破り、
そこに囚われていた「新社会」の人々を解き放つというストーリーになっています。

言ってみれば、原作の土台と主要な柱だけを残して、
その他は、宮崎駿監督の思うままに自由に改築してしまった
「大改造!!劇的ビフォーアフター」的なものがアニメという感じでしょうか。

主人公コナンの破天荒な活躍ぶりは、
是非、作品を見ていただければと思うのですが、
見ていて、そんなバカな…(^_^;)、
と、ツッコミを入れながらも、
その胸のすくような痛快な活躍に、
子供時代、自分はかなり憧れたものでした。
というより、未来少年コナンを目指していた
と言ってもよいかもしれません。

で、こちらがオープニング及び第1話なのですが、
これで、だいたいの雰囲気は味わっていただけると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=0qFyVWcFZ3Q

オープニングでの、ヨットの帆が、気持ちよさげな風をいっぱいに受け、海の波間を快走する様子、
心地よい風のそよぎ、呼吸しているかのようにうねる海の波、
ふりそそぐ太陽に照らされ移り変わる海の色など、
初監督作品から宮崎駿監督の描きたいものが明確に見て取れるような気がします。

この作品で宮崎駿監督はキャラクターデザインも担当しており、
ヒロインのラナなどは「風立ちぬ」のヒロイン菜穂子と、顔と雰囲気はそっくりです。
性格も普段はおとなしいけれど、実は芯が強く、一途なところがある
という点は共通しているような気がします。
監督の理想の女性像がそれなんでしょうか。

あと宮崎駿監督が好きな独特のデザインの巨大飛行機なども登場し、
初監督作品の最初から、かなり自分のやりたいことを
盛れるだけ盛り込んだようにも感じます。

ヒロインのラナがコナンにぴったりと寄り添っている時によく見せる、
すべてを委ねて安心しきっているような表情は、
コナンに好意をもち、信頼しているということもさることながら、
大自然に身を委ねることへの安心感、心地よさ、
といったものを重ね合わせているようにも感じました。

このユニークな自然賛歌といえるアニメ、
機会があったらぜひ見てみてください。

ただし、高所恐怖症の方や水中恐怖症の方は、やや視聴注意ではあります。