らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【クラシック音楽】グレン・グールド 前編

 

以前、クラシック音楽の記事で、
もし無人島にたった一人の演奏家のレコードしか持っていくことができなかったら…
ということで、チェリストのジャクリーヌ・デュプレを紹介しました。
今回は、そのデュプレとどちらを選ぼうか最後まで迷うであろう演奏家の話をしようと思います。


1950年、クラシック界に、22歳で鮮烈なデビューを果たした
1人のカナダ人の若者がいました。彼の名はグレン・グールド


 
https://www.youtube.com/watch?v=YZiX9fJqBqQ
彼のデビューアルバムであるバッハ「ゴルドベルク変奏曲」は、
晦渋な曲とされていたこれまでの解釈に新風を巻き起こし、
曲に新たな生命を吹き込んだ躍動感あるその演奏は、
無名の若者を一気にスターダムに押し上げました。

前回、デュプレの音楽は、聴く者の心を引きずり込んで、
思わず虜(とりこ)にしてしまう力に満ちていると申し上げましたが、
これに対して、グールドの音楽は、
音のひとつひとつが、凄まじい集中力で研ぎ澄まされ、
かつ、生き生きとした躍動感と工夫に溢れ、
不思議な調和に満ちているといいますか…

実をいいますと、朝の散策の際、
ほぼ毎日のように聴いているのが、このグールドなんです。
自分は、朝の散策時に記事のアイデアや表現など考えるようにしていますが、
自分の発想は、グールドの音楽と共にもたらされている
と言っても過言ではない部分があります。

このような衝撃のデビュー以来、
彼は世界各地のコンサートに引っ張りだことなり、
カラヤンバーンスタインなどの名だたる巨匠との共演など、
一流ピアニストの地位を不動のものにしていきました。

クラシック音楽界で誰しもが夢見る地位を瞬く間に手に入れたグールド。
しかし、そのような華やかなステージとは裏腹に、
彼の表情は、次第にその物憂げな表情を増していきました。

毎回似たような、いわゆる名曲の演奏の繰り返しに、
アンコールに応え、拍手喝采を浴び、
何度も繰り返されるカーテンコールという
ルーティングなコンサートに明け暮れる毎日。

音楽は見せ物ではない…
グールドはコンサートにおける表装的な興奮的刺激を嫌い、
次第にふさぎ込むようになります。
ルーティングなコンサートを繰り返すうちに、
知らぬ間に創造力を欠いた演奏になってしまう恐ろしさ。
音楽とは、もっと自分自身との対話によって作り出される創造的行為のはずだ。

グールドは考え抜いた末、32歳の時、
デビューから僅か10年足らずで、全てのコンサート活動をドロップアウトしてしまいます。

そして以後は、レコーディングのみによる音楽活動に没頭するようになります。

グールドの考え方、行動については、いまだに賛否両論があります。

確かにグールドは、常人には伺い知ることのできない
繊細すぎるともいえる感性の持ち主であることは確かです。
そして、繊細すぎるがゆえの奇行が、
いまだに、どうしても人々の興味を集めてしまうところがありますが、
奇行のエピソードにのみ気を取られてしまうのは、
彼の本質を見失うことになるのではないかと感じます。

彼が音楽と静かに一対一で対話することで、創り出し、生み出した音に聴き入ることで、
彼の為したことの是非を決するべきでないかと考えています。




後編に続く


なお、グールドはバッハの曲を好んでおり、自己のレパートリーのメインとしていました。
バッハの音楽は、ベートーベン以降の音楽の、
例えば運命のジャジャジャジャーンの主題のような、そのようなインパクトを期待して聴くと、
地味で、掴みどころがなく聴こえてしまうところがあります。

ここでは込み入った説明はしませんが、
それはバッハとベートーベンの時代の間に、
市民革命などによる個人の解放、近代的自我の発露といった
大きな社会の変化及び人々の意識の変化があったため、
音楽の形式も大きな影響を受けたことによるものと言われています。

そこでバッハをよく聴く自分が、我流の聴き方を申し上げますと、
まず難しいことを考えずに、聴くというよりは音楽を空間に漂わせる感じで。
あたかも自然の風の音を聴くような感じで。
聴くともなしに聴いていた風の音に、木の葉が揺れる音が重なって
ハッと聴き入る瞬間があります。
それをバッハの音楽でも感じる瞬間がありましたら、
その音楽は一生の宝になることでしょう。


グールドのバッハのお勧めはいくつかありますが、
ここでは、デビュー盤のゴルドベルク変奏曲同様、
グールドの、斬新で、アップテンポな演奏が印象的な
イギリス組曲を挙げておきます。