らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【人物列伝】25 ラザロ・スパランツァーニ 自らを実験台にした科学者達

 


先日、自らの体を実験台に睡眠の法則を発見しようとした、という記事を書きましたが、
これは自分自身のオリジナルの発想というわけではなく、
歴史上脈々と受け継がれてきた、偉大な科学者の先人の生き方に倣って試みたものなんです。

その種本は、「自分の体で実験したい 命がけの科学者列伝」
L.デンディ& M.ボーリング著/梶山あゆみ訳
というものなのですが、



彼らの生き方があまりにも、愚直で素晴らしく、かつダイナミックものであるため、
通常の読書の記事にすることなく、
その各々の精神を讃えるべきだと感じ、【人物列伝】のジャンルにて記事を掲載しました。

本書は科学及び医学の分野にて、
自分自身を実験台として自らの研究を完成させた
科学者達の闘いのドラマを記したものです(^_^;)

本書のラインナップを一部紹介しますと、

・食べ物はどうやって消化されるのか。
それを解明するため涙ぐましい実験を続けた
ラザロ・スパランツァーニの物語

・人間はどれくらい高温の空気に耐えられるのか
その限界に挑んだジョージ・フォーダイス達の物語

・炭坑、海底、高山など特殊な環境で働く人々が
安全に呼吸できるようにしたい。
そのために何十年も危険な空気を吸い続けた
ホールデーン親子の物語

・隔離された環境下では人間にどんな変化が生じるのか。
それを調べるため洞窟に長期間ひとりでこもった
女性ステファニア・フォリーニの物語

などなど英雄豪傑きら星のごとき呈を要しています。

この本を読んだ時、雷に打たれたように痺れました(^_^;)
並外れた探究心をもち、かつ人の役に立ちたいという使命感をあふれる彼ら。
しかし、実験を完璧に完遂するためには、
どうしても人体実験が必要な部分があり、
しかし、そうかと言って誰かに頼むわけにもいかず、
ならば自分でやってしまおうと果敢に挑み、見事それをやり遂げた。

頭が良くて、愚直で大真面目で、
大真面目ゆえ、その様子がちょっとコミカルで…
まさに自分が理想とする生き方そのものです(^_^;)

 
今回紹介するのは、
「食べ物はどうやって消化されるのか。
それを解明するため涙ぐましい実験を続けた
ラザロ・スパランツァーニの物語」

18世紀後半のイタリアの人です。
活躍したのはフランス革命の少し前くらいの時代になります。

当時は消化の仕組みについて、
ほとんど何もわかっていませんでした。
胃腸で食物が細かく砕かれるという説、
胃腸で一種の発酵が起こるという説、
食物は消化管の中で腐敗しているという説などが
入り乱れて論じられていました。

スパランツァーニは、まず色々な動物で消化の実験をしました。
動物によって消化の過程は様々で、
例えば、鳥は歯がないが、消化管の砂嚢というところで食物をすりつぶす。
この砂嚢という器官は大したもので、
硬いガラスや金属を数時間で粉々の砂に変えてしまうことができるそうです。
また蛇も食物を丸呑みするけど、鳥の砂嚢に当たる部分がなく、
異なる消化のプロセスを持っている。
同じ哺乳類でも肉食のものと草食のものとでは、
ライオンと牛を例にとればわかるように、消化のプロセスは全く異なる。

言われてみれば、確かに動物の生態の数だけ、
消化のバリエーションもあるといえるほど、
そのプロセスは多様なもので、まことに興味深いものです。

それでは一体人間はどうなのか。
実験は佳境に入っていきます。

スパランツァーニは、まずパンを亜麻袋に詰めて、
そのまま飲み込みます。
袋に入っていれば、飲み込んでも
パンのありかをつきとめやすいし、
消化液もしみ込むので、ちょうどいい。
1日経ってパンの袋は無事排出されます(^_^;)
袋の中のパンは完全に無くなっていました。

次に消化を遅らせるために袋を三重にして飲み込みます。
やはり1日経って袋は無事排出されましたが、
中には乾いたパンが残っていました。
彼はそれを味見して(^_^;)、風味が全て抜けているのに気付きます。

今度は人間の胃腸が鳥の砂嚢と同じ機能を有しているのか、
固い木を削って、筒を作り、その中に食物を入れて実験します。
固い木でできた筒を飲み込むのは、
ごく普通の食事でもよく消化不良を起こしていたため(^_^;)大きな不安があったそうです。
しかし心配は杞憂でした。
1日経って筒は無事排出され、筒の中身は空になっていました。

この結果、胃腸ですりつぶすことなしに
消化液が立派に消化の役目を果たしていることが判明しました。

さらに、よく噛んだ食物とそうでない食物を入れた筒を同時に飲み込んで、
噛むという行為が消化にもたらす影響を明らかにしました。

なんでも彼は不完全な実験を数回行っただけで
あて推量で結論を下す科学者の態度が我慢できなかったとのことで、
この手の実験を何十回、何百回となく納得いくまで繰り返したそうです。

人間の消化には消化液が重要であることをつきとめた彼は、
人間の消化液である胃液を手に入れようと苦心します。
解剖用の死体からは胃液はほとんど残っておらず、
仕方なく?自分の胃液を採集することに(-.-;)
飲食すると胃液が汚れるので、きれいな胃液を採集するため、
一定の時間絶食し、朝空腹のまま喉の奥深くに指を入れ、
何度か試すうちに、かなりの量の良質の胃液を採集できたとのこと(-.-;)
この採集した胃液が実験にかなり有用で、
胃液と混ざった食物は、明らかに腐敗とは異なっており、
化学的な変化を起こしていると結論づけます。

また、食物の入った筒を飲み込み、数時間後無理やり吐き出し、
中の食物がすでに消化されかかっているのをみて、
消化を行っているのが腸でなく、胃であるとつきとめました。

人間ポンプと化してしまった感のあるスパランツァーニですが(^_^;)
このように自分の体から十分なデータを集め、
いくつかの結論を引き出します。

まず、歯を使って食物を細かく噛めば消化は早まるが、
口を通過してしまうと食物がそれ以上砕かれることはない。
胃腸の消化液は純粋に化学的プロセスで食物を消化し、
それは腐敗とも発酵とも異なる。
また消化液は体外に出ても、その働きに変わりがない。
つまり消化器系では、単なる化学反応が起こることにより消化が行われている。

その結論は、200年経った現在でも、
人間の消化というものに関する理解の重要かつ基本的な事項であり、
後進の科学者達は、この知識をベースに
さらに消化というものを解明していったとのことです。

人間ドラマは決して文科系だけのものではありません。
このような理科系の分野においても、
未知なる知識への格闘など
素晴らしい人間ドラマがあるのです(^_^;)

今後このようなものをいくつか紹介していきたいと思っています。





ラザロ・スパランツァーニ肖像