らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「空気男」海野十三




「空気男」という題名から、
職場などで目立たない男の話かと思いきや、
さすがにそれは違いました。

いわゆる透明人間の話です。

ちゃんとした博士が、それを発明しているのですが、
その動機が問題です。

普通は、世界平和のためとか、人間全体の幸福のためとか、
そういう大上段な理由が掲げられてもよさげですが、
この博士の場合は、怖い奥さんから身を隠すため。

えー、それは有り得ないとおっしゃるかもしれませんが、
そんなことはありません。
現在のトヨタグループの祖である豊田佐吉は、
苦労する母親のために織機を発明しましたし、
ドクター中松の家庭用灯油ポンプもまた然り。
意外にパーソナルな個人的理由が、
大発明につながったりしているのです。

どうも博士は婿養子で、
奥さんと家付きで結婚したようですが、
奥さんは、日頃から「虫けら!」などと博士を罵っています。
これは厳しいですよ(^_^;)

しかし、博士の偉いところは、
奥さんを恨むことなく、自らの負の境遇を、
ひたすらに奥さんから逃れる発明への原動力にしたことです。

そのかいあって透明人間の発明に成功した博士は、
これで堂々と玄関から家に入れると誇らしげに語っています。

博士が発明した空気男になるアイテムは、
小型ラジオほどの青い器械で、
電極を2つ体につけると、電気的に消身する装置です。
理工科で電気工学を専攻した海野氏らしいアイデアです。

最初、博士は青い器械の装置を使って、
空気男になったことをいいことに、
ここぞとばかり、奥さんに、神の声を装い驚かせるなど、
イタズラを仕掛けています。

結局捕まって、正体がばれ、がんじがらめに縛りあげられ、
ベッドの金具に結びつけられてしまうんですけども(笑)

が、しかし、今回の博士は、非常に粘り強いんです。

奥さんに持病の薬と偽り、消身薬の包みを持ってこさせ、
再度、空気男となり、逃走を謀ろうとします。

この消身薬とは、博士が以前発明した空気男になるアイテムなんですが、
飲むと身体が空気と同じようにフワフワになってしまうという欠点があります。
要は、体が、細かい粒子の集合体のようになってしまうということのようです。

ところで、博士が消身薬を服用する描写ですが、
ここを読んで、自分、ちょっと感動してしまいました。
一部抽出して紹介しますと、


博士は、
「さらば、愛するオクサンよ!」
と云うなり、薬を口中に抛りこもうとした。
「あなた、待って――」
妻君は愕いて清家博士の手を押さえた。
「あなたが死ぬなら、わたしも一緒に死にますわ」
妻君は博士が自殺するものと早合点したので、
自分も一袋をとって口の中に抛りこんだ。



奥さんは博士を散々バカにして、いたぶっていたようにみえて、
実は、博士のことを深く愛していたんですね。
そうでなければ後追いで、毒薬と思われる薬なんて飲めないですよ。

本当に夫婦の愛ってそれぞれの形があって、
はた目からみると、
羊がライオンにいたぶられ、今にも食べられそうに見えても、
実は、ライオンは羊をひたすら可愛がって撫でていただけだった、
というような形もあるのだなと。


さて、話戻りますが、
細かい粒子の集合体となり、
宙にふわふわ浮いている状態となってしまった博士は、
不運なことに、気流に流され、外に飛び出し、
はるか遠くまで飛ばされてしまいます。

博士がどんどん空に飛んで行ってしまって、
どうなってしまうのだろうと、読み進めると、
最後の章の冒頭に「大団円」とあります。

これを見て自分は、
あー、博士と奥さんは無事、元に戻ることができ、
色々あったけれども、空気男になる発明が、
夫婦の愛を確かめるきっかけとなり、
最後、夫婦睦まじく寄り添って終わる。
つまりは科学が人間を救った。
というラストシーンになるのだなと想像しました。

しかし、いくら読み進めても、
そのような気配すらしてきません。

それどころか、宙を漂う博士の体はますます伸びてしまい、
足首を電線にひっかけ、
ビルの避雷針で膝頭から切れてしまい、
広告バルーンに胴中を真二つにされ、
最後には飛行機のプロペラで、手首や腕が切られ、
果ては、首までちょん切られてしまいます。

半ば呆然としながら読み進め、
たどり着いた物語ラストシーンの描写。

「変な時、変なところで、手首が一個、また別の変なところで生首が一つ、
という風にバラバラ事件が起るが、その犯人が捕った話を聞かない。
それは外でもない、
この清家博士の千切れた身体が、
元の固体に還元して発見されるのである。」


終わり


大団円・・

あれっ?大団円ってどんな意味だったかな・・

ひょっとして今まで、大団円の使い方を間違っていたかもしれない・・
念の為、辞書を見ますと、


「大団円」
演劇や小説などの最後の場面
すべてがめでたく収まる結末についていう


めでたい・・

めでたい・・かな~(-.-;)

めでたいは厳しいなあ(-.-;)

まあ科学の行く末が、必ずしも幸福につながるとはいえませんから、
この結末はリアルといえば、そういえなくもない。

そう考えると、めでたいかどうかはともかく、
結末はきちんと収まっているといえば、収まっていなくはない。

う~ん(-.-;)、しかし・・厳しいなあ・・

海野作品…なんだかよくわからないけど、奥が深いなあ(^_^;)