らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「蒲団」田山花袋

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この作品に関しては初見ではありません。
高校生の時、一度読んだものの、
思春期の未熟の極みかラストシーンの描写に惑わされ
その他の内容はあまり記憶にないんですw

それはさておき、今回読み進めていくうちに、
あーなるほどなるほど。という感じで、
自分でも意外に主人公に同情できてしまった部分がありました。

ストーリーは、30代半ば妻子ありの小説家の中年男に
地方から20歳そこそこの可愛らしい女学生が弟子入りしたいと上京してきます。
男は表面上は保護者づらしてすましているものの、
心の中ではなんとかして彼女をモノにしたいと煩悩が渦巻いて悶々とするという話。

男は彼女の一挙手一投足を実に細かく見ていて、
その度に煩悩が反応して苦しんでいるのが、哀愁を誘うというか。

しかし考えてみれば、この手の話は現代でも容易に想像できることで、
例えば30~40代妻子ある男性の部署に新入社員の女性が配属されて…
という話に、あーそうかと思った人はこの小説に興味を感じるに違いないと思います。

20代の独身男性は今ひとつピンとこないかもしれません。
女性は年代を問わず無理だと思いまう。
勘違いのキモいおっさんの妄想とぐらいにしか思わないのではないでしょうか。
太宰治「カチカチ山」と異なり、母性愛に満ちた女性でも今度は無理かも。

そういう方には、小説の女学生芳子のモデルとなった岡田美知代女史が
「ある女の手紙」「花袋の「蒲団」と私」を後年執筆して
「蒲団」に反論しておられるのでこちらをお勧めします。

話は彼女の恋人田中の出現でにわかに三角関係の様相を呈しますが、
その男も、主人公の妻にツッコミを入れられるほど煮え切らない冴えない男で、
こんな男に渡してなるかと情熱を燃やすんですが、最初から勝負はついてしまっているんですよね。
というか彼女の心の中に主人公は最初からインプットされていないと思います。

というわけで主人公のエネルギーは二人の仲を裂くことに専ら集中することになり、
その効が奏して彼女を田舎の実家に帰郷させるという結末となります。

最後に、彼女が去った下宿部屋に一人佇んで
彼女の持ち物の匂いを嗅いでむせび泣くという衝撃のラストシーンなるのですが、
主人公も机の上に置いてあった女の櫛を手に取って、
はらはらと泣く程度にしておけばいいのに、
わざわざ押し入れにたたんでしまってある蒲団を引き直して、
その上にうつ伏して女の夜着に顔を押しつけ匂いを嗅いで泣いたという念の入りようで、
やっぱりこの部分は男の自分でも相当ひいてしまいます。

発表当時もかなりセンセーションを巻き起こしたそうで、
それ故現在も読まれ続けてるともいえなくもないのですが、
関係者、特に岡田女史とその家族と花袋の奥さんは当時かなり迷惑を被ったのではないでしょうか。

しかしそこさえ除けば、中年男の悶々とした報われぬ想いが、
きめ細かく描写された佳作といえなくもありませんね。