らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「三十年後の東京」海野十三

昭和22年に冷凍カプセルに入った少年が、
30年後の昭和52年に目覚めて、その世界をかいま見るという物語。

昭和52年というと、自分は既に生まれていて、
それなりに物心もついていました。
母親(親バカ)に言わせると、
小さい頃は、那智黒のような黒い瞳が印象的な、
かわいらしい男の子だったそうです(^^;)
じゃあ、今はダメなのかという話ですが…(^_^;)

どういう時代だったかな?という方に、
この年の出来事を挙げますと、

王貞治選手、通算756号世界最高記録達成
キャンディーズ、普通の女の子宣言し、引退。
エルビス・プレスリー42歳にて死去。

ちなみに当時は福田赳夫内閣。

流行った歌
青春時代 / 森田公一とトップギャラン 
失恋レストラン清水健太郎 
津軽海峡冬景色 / 石川さゆり 
暑中お見舞い申し上げます /キャンディーズ 


と、まあ、こういう時代だったわけです。

この物語は、SF作家海野十三が、戦後直後に、
科学技術者としての目を通して、30年後の未来を予知した話であり、
また当時の人々の、近未来に対する
夢や理想みたいなものを描いた話でもあります。


冒頭、少年の入っていた冷凍金属球が発見され、
発見者の博士は携帯無線機を使って連絡し、
ヘリコプター(竹とんぼ式飛行機)で、それを移送します。
竹とんぼ式飛行機という名前に、
なんとも風情を感じるではありませんか(^_^;)

この2つは正確に的中しておりますね。

無事、冷凍金属球から目覚めた13歳の少年は、
30年前では想像もしなかった
いろいろなものを目にします。

まず人類は核攻撃を警戒するあまり、
基本的に地下で生活しています。
これは、終戦直後の人々の、
核兵器に対する恐怖をリアルに感じます。

その他、地球を狙う異星人らしき存在を警戒する意味もあって、
地下生活をしているとのことですが、
幸運にも?、どちらの理由によっても、
人類の地下生活というのは実現されておりません。

ただこの地下生活は悪いことばかりでなく、
人間が地下に潜ったおかげで、
地上の自然が本来の形を取り戻し、
たまに地上に出ては、ピクニックを楽しむ人々が少なくないとのこと。
これは地球にとっては悪くないことかも(^_^;)

そして、少年は人工心臓でかろうじて生きている、
老婆となった30年後の母親に再会します。
少年は無邪気に母親との再会を喜んでいますが、
もし自分だったら30年ぶりの再会は、もちろん嬉しいのですが、
どちらかというと、やはり大きなショックを受けるでしょう。

作中の少年が、こんなに無邪気なのは、
戦争で命を拾ったことさえ幸運なのに、
おまけに普通では死んでしまっているところを
科学技術の力で長生きまでしているという
戦後直後の人々の、生が長らえることへの
素朴な憧れといったものなのかもしれません。

その他、温度と湿度が一定に保たれた快適な地下都市の様子や、
大きな建物の中に作られた工場のような農場、
そこでは自由自在に作物を作ることができ、
飢餓は存在しない、というより飢餓という言葉自体、人々は忘れてしまっている様子や、
原子力エネルギーを効率的に有効利用して、
海底都市を造ったり、海底資源を掘削したりという大規模な土木工事の様子や、
太平洋を短時間で横断する新しい高速交通の発明など
最先端の科学技術によって、
人類の生活が今までの不安から解放され、
快適かつ幸せなものになるという夢が、物語の中にいっぱい詰まっています。

ひと通り読んでみると、
多少形は変わって、実現に遅れはあるにしろ、
いい感じで、ほぼ的中しつつあるんではないでしょうかね。

自分が近未来を予測しろと言われても、
ここまで当てる自信は全くありません。
さすがSF作家の第一人者というべきでしょうか。

この作品を読んで、今から30年後、平成54年に、
世の中がどうなっているのか、自分なりに想像してみました。
が、この作品のように、科学技術の発展により
世の中が幸せになるというストーリーがあまり湧いてこないんです。

確かに最先端の科学技術は、人を幸せにもするけど、不幸にもする。
科学技術それ自体は善悪という性質をもっておらず、
科学技術によって幸福になるには、
それを使用する人類が正しくあらねばならない。
が、その肝心な人類は、内面においてあまり進歩が見られず、
むしろ、現代においては、新しい問題すら起こりつつあり、
その内面は、大きく揺れ動いているようにもみえる。
というようなことを、感じてしまうからなのかもしれません。

とはいうものの、人類の未来について、
全くのペシミスト悲観主義)というわけでもないんです。
科学技術の発展イコール人類の幸福というわけではないということだけなんです。