らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「耳無芳一の話」小泉八雲

小泉八雲の「耳無芳一の話」、改めて読んでみると、
不思議に、知らず知らず、物語の音というものに意識が向いてしまいます。

芳一を連れて行く鎧武者の甲冑がこすれる音、
連れて行った先の、女達のひそひそ声。
芳一がかき鳴らす琵琶の弦の音と、
しんと静まり返って聴き入る周囲の静寂さ。
歌い終わった後のさめざめと泣く貴人達の泣き声。

物語の描写が終始、盲人の芳一の視点で描かれているからでしょうか。
自然と、そのような音に引き寄せられ読んでいる自分に気づきます。

それが、今度は目の見える下男の視点に映ると、
ひっそりとした真っ暗闇の墓地で、
無数の鬼火に囲まれながら、
盛んに琵琶を弾じている芳一の姿が浮かび上がります。

芳一の視点の描写では、静かで哀しげな琵琶の音が、
一転、おどろおどろしく無気味で、かつ激しい印象に変わるのは、
読者の視点の変化の為せる業なのかもしれません。

そしてラストでは、再び物語が芳一視点に戻り、
全身くまなくお経を書かれた芳一が、
部屋を探し回る亡者の鎧武者に見つからぬよう、
息をひそめて気配を消している描写。

浅く静かに吐き出される息、
抑えようとしても高まる胸の鼓動、
首筋にうっすらと薄く流れる汗。
といったものが彷彿とされ、
読む者も、芳一の隣で、息をひそめているような緊張感のようなものに、とらわれます。

そして、結末は、皆さんご存知の通り。

ただこの一連の話が評判を呼び、
後に、芳一が金持ちになったというくだりは知りませんでした。

まあ平家の亡霊絶賛の平家琵琶ですから、
そりゃ、世の人々は一度は聴いてみたいと思うでしょうね(^_^;)

なお、原作は英語で書かれており、
今回読んだ作品は、それを翻訳したものです。
翻訳としては物語の緊張感を損なわず、
非常に優れたものに思います。

ただ小泉八雲自身が、英語でどのように表現しているか
ぜひ見てみたい気がしますね。


なお「耳無芳一の話」及び平家物語に関連したおまけ話を、
近々、ちょこっと書こうかなと思っています。