らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「双子の星」宮澤賢治

9月になり、中秋の名月も近づいてきて、
ブログでも、ちらほら、お月さまにまつわる話を目にするようになりました。
それでは。というわけではありませんが、
今回、自分は、星にまつわる宮澤賢治の物語を。


この「双子の星」は賢治が21歳の頃書いた、
きわめて初期の頃の作品で、
書いたものを、幼い兄弟に読み聞かせたりしていたとのことです。

物語の主人公は、胞子ほどの小さな双子の星の、チュンセ童子とポウセ童子

夜に、自分のお宮で、きちんと座り、
空の星めぐりの歌に合せて、
一晩中、銀笛を吹くのが役目です。

のちの「注文の多い料理店 序文」で宮澤賢治はこのように言います。


「わたしたちは、きれいにすきとほつた風をたべ、
桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
(中略)わたくしは、さういふきれいなたべものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、
虹や月あかりからもらつてきたのです」


この物語でも、賢治が自然から貰った、うつくしいものの数々が描写されています。


「今は、空は、りんごのいい匂いで一杯です
西の空に消え残った銀色のお月様が吐いたのです」


普通なら、りんごの匂いは、
りんごの木から匂ってくるものものだろうと考えてしまいますが
明け方に沈もうとしている、
ひんやりとした銀色の月から、
りんごの香が吐き出され、ほのかに薫ってくるという感覚は、
実に詩的で、ロマンティックで、
意表をついていて、ハッとさせられます。

その他にも、「よだかの星」のデッサンといえるような描写もあり、
まことに興味深いものがあります。

大空の大烏とサソリの喧嘩の話も、
夏の夜空に、大胆に重なり合うそれぞれの星座を見て、
賢治が夜空の星々から、もらったものなのでしょう。


双子のお星様は、大烏とサソリ両方のケガの介抱をしていたおかげで、
いつもの役目に間に合わなくなりそうになってしまいます。

が、そこへ王様の使いの、稲妻が飛んで来て、
2人を無事送り返してくれます。

双子のお星様たちは悦んでつめたい水晶のような流れを浴び、
匂いのいい青光りのうすものの衣を着け、
新しい白光りの沓をはき、
いつものように、星めぐりの歌に合わせて、
銀笛を吹き始めます。

きらきらとした非常に美しい描写です。

夏の夕立の稲妻が閃き、それが収まると、
まもなく夕闇が訪れ、星がきれいに瞬き始める。

ある意味、いつも同じように、当たり前のように、
自然が繰り返している情景を、
美しく優しい調和の世界に感じ取った賢治の感性は、
やはり素晴らしいものがあります。


なお、作中の、星めぐりの歌の歌詞

あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの 小いぬ

ひかりのへびの とぐろ

オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす

アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち

大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて


には、賢治自身が曲をつけています。
賢治はチェロをたしなんでおり、
曲作りでもチェロを弾きながらだったでしょうから、
チェロバージョンのものを紹介しておきます。
http://www.youtube.com/watch?v=Z3TYk5490YU

銀河の流れ、星の瞬きという内容からすると、
サラサラと流れてゆくようなメロディかと思いきや、
音を短く刻んだ、テンポのよいメロディになっています。
無数の星達が夜空で歌ったり、踊ったりしているというイメージなのでしょうか。

それが楽しげであり、かつ静けさや落ち着きのようなものも感じさせる、
シンプルながら、不思議な感覚のする音楽になっています。