らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

100分de名著「銀河鉄道の夜」宮澤賢治 第2回 悲しみから希望へ

第二回冒頭「銀河鉄道の夜」のストーリー紹介で、
ジョバンニとカムパネルラがどこまでも一緒に行こうと誓い合った直後、
カムパネルラの姿が消えてしまうシーンのアニメーションの作りは、非常に良かったと思います。
そのシーンのBGMは宮澤賢治が作曲した「星めぐりの歌」の編曲版で、とても合っていました。

初回同様、東日本大震災と絡めた構成になっていましたが、
賢治が生きていた時に起こった昭和三陸地震などの大災害について、
賢治が作品内で特に言及していないということをパルバースさんは指摘していました。

その理由について、賢治は対パーソナル、即ち個対個の関係を重視していたのではないかとのこと。

そうすると、番組内で繰り返しされる、被災者の方々への抽象的な激励メッセージみたいなものは、
却って宮澤賢治の本質、つまり個対個の関係を大事にするということを
わかりにくくなってしまっているような気もします。

淡々と作品について語ることで十分被災者の方々の心に通じます。

さりげなさみたいなものが、個人的には欲しかったような気もします。


あと「銀河鉄道の夜」の創作のきっかけが最愛の妹トシの死であることが紹介されていましたが、
妹の死をテーマにした「永訣の朝」の紹介がなかったのは残念でした。

これは賢治の、亡くなった妹トシへの心の底からの思いを吐露した作品なので、がっかりしました。

ただ今回の放送で一番共鳴したのは、
番組で紹介されていた「雨ニモマケズ」の詩の「行ッテ」という部分を重要視し、
宮澤賢治が自分の足で実際に一人一人を救うという実践を重視していた部分です。

思うだけでなく、祈るだけでなく、心配するだけでなく、
「行ッテ」その人のためになるようなことをしてあげなさい。というメッセージは誠に尊いものだと思います。

最後に番組では紹介されなかった妹トシへの「永訣の朝」を紹介しておきます。


「永訣の朝」


けふのうちに
とほくへいってしまふ
わたくしの
いもうとよ

みぞれがふって
おもては
へんにあかるいのだ

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
※「雨雪を取ってきてください」の意
トシが死の間際、実際に賢治に頼んだ言葉


うすあかく
いっさう陰惨な雲から
みぞれはびちょびちょふってくる

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

青い蓴菜
もようのついたこれら
ふたつのかけた陶椀に

おまへがたべる
あめゆきをとらうとして
わたくしは
まがったてっぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる

ああ とし子
死ぬといふいまごろになって
わたくしを
いっしゃう
あかるくするために
こんなさっぱりした
雪のひとわんを
おまへはわたくしに
たのんだのだ

ありがたう
わたくしの
けなげな
いもうとよ

わたくしも
まっすぐに
すすんでいくから

(あめゆじゅとてちてけんじゃ)

はげしいはげしい
熱やあえぎのあひだからおまへはわたくしに
たのんだのだ

銀河や太陽、気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた
雪のさいごの
ひとわんを

ふたきれの
みかげせきざいに
みぞれは
さびしくたまってゐる

わたくしは
そのうへに
あぶなくたち

雪と水との
まっしろな
二相系をたもち
すきとほる
つめたい雫に
みちた


このつややかな
松のえだから
わたくしの
やさしい
いもうとの
さいごのたべものを
もらっていかう
わたしたちが
いっしょにそだってきたあひだ
みなれたちやわんの
この藍のもやうにも
もうけふおまへは
わかれてしまふ

(Ora Orade Shitori egumo)
※「私は一人で天国に行きます」の意
トシが病床で賢治に言った言葉


ほんたうに
けふおまへは
わかれてしまふ

ああ 
あのとざされた病室の
くらいびゃうぶや
かやのなかに
やさしくあをじろく
燃えてゐるわたくしの
けなげないもうとよ

この雪は
どこをえらばうにも
あんまりどこも
まっしろなのだ

あんなおそろしい
みだれたそらから
このうつくしい
雪がきたのだ

(うまれでくるたて、こんどはこたにわりやのごとばかりでくるしまなあよに、うまれてくる)
※「また人間に生まれて来る時は、今度はこんなに自分の事ばかりで苦しまない様に、
生まれて来ます」の意
トシが病床で賢治に言った言葉


おまへがたべる
このふたわんのゆきに
わたくしは
いまこころから
いのる

どうか
これが兜率の
天の食に変わって
やがては
おまへとみんなとに
聖い資糧をもたらすことを
わたくしの
すべてのさいはひを
かけて
ねがふ