らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「ばけものばなし」岸田 劉生

斎藤茂吉関連の記事が、ずっと続きましたので、
今回は少し趣向を変えて、岸田劉生の作品をお送りします。

岸田劉生は日本を代表する画家の一人であることは間違いありません。
代表作は「麗子像」。
一度は必ずご覧になったことがあるのではないでしょうか。
「麗子像」については、次回の「美術上の婦人」の記事で詳しく書くことにします。

この作品は、画家岸田劉生が、ばけものについて、
いろいろと考えた事や感じたこと等、思い出すままに描いてみようと記したものです。
かなり自由に文章を書いており、
いくつかの項目ごとにわけて、ばけものについて述べています。
項目によっては、尻切れトンボといいますか、オチがないようなものも見受けられますが、
そこは本職の文筆家ではありませんし、むしろ愛嬌のようなものを感じ、
画家の、絵画の作品だけからは伺い知ることのできない横顔を垣間見ることができます。

まず、彼はおばけという存在は、まるで信じていないけれども、
怪談をやる事、聞く事は好きだと述べています。
即ち、元来、妖怪等というものは、人間の神秘的要求、恐怖本能等から生れた空想を、
一層興味を以て脚色したいわば一種の芸術的な作品なのだといいます。

そもそも古代において、人間には計り知れない世界が広がっており、
その中のものについて漠然とした不気味な、また神秘的なものを感じていたに違いありません。
そしてそれは、それぞれの土地ごとの特徴や住む人々の習慣や気質により、
ある形となって結実したのが、妖怪やらお化けの姿ということになるのでしょう。

時代が進むにつれ、人間は地球上の様々なところに進出し、
漠然とした不気味な、また神秘的なものというようなものは少なくなってゆきました。
しかし、自分は、まだ人間にとって計り知れない世界である宇宙というものについては、
そのような漠然とした不気味な、また神秘的なものといった意識が残っているような気がします。
そうしますと、宇宙人というのも、古来からのおばけ、妖怪というものの延長線上にある存在、
ということができるのかもしれません。

劉生は、日本の妖怪の味は、生きものの、気味悪さというものを生かしているところにあると言います。
人は、美人の髪をみて甚だ美くしいと思い、その腕をみては悩ましくも思うだろうが、
もし、如何に美人のでも、髪が切って落ちていたり、腕や足が離れてそれだけあったりしたら
正にきみの悪いものであり、その気味の悪さを、日本妖怪の作者は掴んでいるのではないかと言います。

確かに外国の妖怪、狼男とかドラキュラなどは怖さがピンときませんが、
ろくろ首とかのっぺらぼうなどは妙に怖い気がします。
これらは、妙に日本の風景、例えば、障子ごしとか柳の下とかに似合いますしね。
まさにこの2つは、たとえ、形が美人であっても、少し形などが異なることで、かなり不気味に感じるものです。

劉生は、「ばけものというものの興味を、むしろ形の方から感じている」と述べており、
妖怪やおばけの類に対し、画家らしい切り口で、その恐怖がどこから生じるかということを論じています。

ところで皆さんは、妖怪と幽霊ってどう違うと考えますか?

劉生は、幽霊とは人間の化けたもので、妖怪とは人外の怪である。としています。
それについては自分は、あー、なるほどと思いました。

そして、人に、幽霊と妖怪とどっちが怖いといって聞くと、
大ていは幽霊の方がこわい、妖怪はむしろ可愛い気分があると答えるそうなんですが、
実際はどうなんでしょうか(^_^;)

劉生は、妖怪一つ目小僧が、戸外から帰って来た自分の部屋などにだまって坐っていたら
かなりこわいだろう。と言って反論していますが、まあそうですよね(^^;)
自分が帰宅して部屋に入って、ベッドにのっぺらぼうが寝ていたら、
確実に3mは飛び上がりますよ(^_^;)

自分的には、幽霊は恨まれるようなことをしなければ問題ないような気がしますが、
妖怪は猛獣のような動物に近く、偶然出くわしたが最期のような感じがします。

劉生も、同じような趣旨で、
幽霊に出られたよりも妖怪というものに出られた方がもっと、徹底的な恐怖を味う事と思う。
と言っています。

劉生も言っていますが、
妖怪の起源は、原始より人類が、他の巨大な動物、未知の動物、または自然の威力等に対して持った
実感に基づくのに対し、
幽霊は容易に知り得ない人の心の中の暗闇から、想像して人間が作り出したものといえるかもしれません。

そうすると、妖怪は人外の伺い知れないものから生じ、
幽霊は人内の伺い知りないものから生じる存在ということになるでしょうが、
未来的には人間は様々なところに引き続き進出していくことから、
次第に妖怪は駆逐され、その数を減らすのに対し、
人の心は複雑になり、闇が深くなってゆくことから、
幽霊は増殖するということになるのかもしれません。


その他にもこの作品は、
・幽霊に足のない訳、妖怪に足のある訳
・一つ目小僧のリアリスチックで味が濃い件について
・狐にばかされるという事の合理的の解釈
・鬼について

などという面白い項目も書いています。
また文章の所々に挿入されている挿し絵も、
なかなか味があって面白いものです。
興味をもたれた方は青空文庫にて、ぜひご覧になってみてください。