【美術】オランジュリー美術館展3「婚礼」アンリ・ルソー
「婚礼」アンリ・ルソー
今回オランジュリー美術館展に行きまして、
興味深いことがいくつもあったのですが、
初めてその作品を実際に見た画家の作品もいくつかありました。
その一人が アンリ・ルソー。
他には無い風変わりな絵を描く人ですが、
おそらく自分の人生で一番最初の記憶のある絵は、このアンリ・ルソーなんです。
おそらく5歳か6歳ぐらいの時、幼稚園児が読む雑誌に載せられていたのがこの作品。
「眠れるジプシー女」
不思議な静寂。ライオンが間近にいるのに、女の人がすやすや眠っている。
怖いとか楽しいとか、そういう喜怒哀楽の感情は分からなかったですね。
いったいこれは何なんだろうという不思議な感覚。
そして今回見て思ったのは、彼の絵は人の気配がしないんです。
「嵐の中の船」
荒れ狂う海に揉まれる船。
普通は人は描かれていなくとも、嵐を耐え凌ぐ意識みたいなものが伝わってくるものですが、
そういう生命反応がまるでしない(笑)
のほほんと海に揉まれてるようにも見えます。
「婚礼」のように作品に人が描かれている作品においても、
その背景にある建物や自然の中に人の息遣いのようなものが感じられない。
今回ユトリロの作品も久しぶりに見ました。
ユトリロも人物が描けない画家でしたが、彼の風景画には人の気配がするんです。
そこでいる人々の息遣いと言いますか。
静寂というのは人の意識の中で作り出されるもの。
しかしアンリ・ルソーの絵にはそれが全くない。
静寂というよりはひたすらに不可思議な世界が広がっています。
見る人に的を絞らせないといいますか、見れば見るほど不思議な絵です。
しかしながら、じっくりと見ると、描かれた人物の表情など細かく描き込みがされており、写実的とすら言えます。
後で知ったことですが、ルソーは自らを「リアリズムの画家」と呼び、
肖像画を描く際には、定規と巻き尺でモデルの実際の大きさを細かく採寸し、その長さを元に描いていたそうです。
どの辺かがリアリズムかとツッコミを入れたくなる部分もありますが(^_^;)
作品の人物の細かい書き込みを見て、あー、なるほどと思う部分もあります。
そこまで緻密に計測して描いて写真のような絵にならなかったのは、
人間が表現する思考過程である知覚―記憶―表現―叙述の回路のうち、
各過程のどこかがまっすぐ通っていなくて、彼特有のねじりがあり、独特の味わいを醸し出すことになった。
ピカソはアンリ・ルソーの絵を高く評価していたということですが、
見る者にある意味焦点を絞らせないアンリ・ルソーの画風は、
ピカソの計算され尽くされたキュビズムに対し、
天然キュビズムとも言うべきものだったのかもしれません。
ピカソ
アンリ・ルソーのアトリエにて
次回の記事は【もぞvs Aさん 】アンリ・ルソーです。
お楽しみに。