らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「夢十夜」第三夜 夏目漱石

第三夜はなかなか恐ろしいホラーの夢です。
小泉八雲泉鏡花ばりの怪談ものになっています。

余談ですが、夏目漱石小泉八雲の後任として、東京大学で教鞭をとりましたが、
学生の間で前任の小泉八雲の人気は高く、
生真面目な授業だった漱石はかなり割を食ってしまったようです。

この物語はそんな小泉八雲に対抗するつもりではなかったでしょうが、
ある意味勝るとも劣らぬ出来栄えで、夏目漱石ってこの手の物語も書けるんだという驚きでもあります。

自分的には「夢十夜」の中では一二を争う名作だと思っています。


第三夜


漱石は六つになる自分の子供をおぶって、雨のしとしと降る青田のうねった細い路地をとぼとぼ歩いている。
おぶっている子は確かに我が子なのだけれど、いつの間にか眼が潰れて盲目になっている。
声は子供の声であるが、言葉つきは大人そのものでタメ口。
しかも漱石が歩いていく先々のことを目が見えないのに、次々と言い当てる。

気味が悪くなった漱石は、この先の大きな森におぶった子供を捨てようとするが、
その時、背中でそれを察した子供が笑い出す。
「何を笑うんだ」と漱石が問うが、子供は答えない。
その時の子供の、漱石への問いかけがなんやら意味不明で、不気味で仕方がない。

辺りは暗くなり、行く先の大きな森になかなか辿り着けず、
漱石はいつしか得体のしれぬ背中の小僧の指図されるがままに夢中で足を早める。

その時の小僧の、独り言とも語りかけともわからぬ、何かを予知しているような、初めから知っているような、
常人では意味不明の言葉が不安感を煽り、その謎が深まってゆく。

最後に二人は森の奥にある杉の根の処に辿り着く。
「ここだ、ここだ。ちょうどその杉の根の処だ」
雨の中で小僧は言う。
「御父(おとっ)さん、その杉の根の処だったね」との小僧の問いかけに
「うん、そうだ」と思わず答えてしまう漱石

一体この杉の根の処で何があったというのだろうか…



読み手に不安と恐怖が高まってゆく、背中の目のつぶれた小僧とのやりとり、
しとしと雨が降る情景に人気のない青田に狭いくねった道、
やっと辿り着いた大きな暗い森に、意味ありげな杉の木。
古典的ではありますが、ホラーとしてはアイテムは充分という感じです。

自分、よく考えるとホラー作品の記事は初めてなんです。
最初の下書きではネタバレまでしてしまっていたのですが、
ホラーでこれはマズいと思い、物語のオチを残す形としました。

ネットの青空文庫ですぐ読めますので、詳細が気になる方はぜひお読みください(^^)