「夢十夜」第一夜 夏目漱石
夢を大幅にデフォルメしているのかもしれない。
しかし内容を読んでみると、この作品の取っ掛かりは、
しかし内容を読んでみると、この作品の取っ掛かりは、
どの話もそれぞれに面白いので、特に気に入った話を何回かに分けて書きたいと思います。
なお、読んでいて思いましたが、この手の作品は内容そのものを楽しむもよし、
なお、読んでいて思いましたが、この手の作品は内容そのものを楽しむもよし、
なぜ漱石はこんな内容の夢を見たのだろうと、漱石の深層心理を勘ぐるもよし。
一粒で二度おいしいではありませんが、そんなところもあるようにも感じます。
第一夜
漱石はある女性の枕元に座っています。
その女性は静かな声でもう死にますと言います。
「長い髪に輪郭の柔らかな瓜実顔。
真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。
大きな潤のある眼で、長い睫に包まれた中は、ただ一面に真黒であった」
かなりの美人です。
「黒い瞳のなかに鮮やかに見えた自分の姿が、ぼうっと崩れて来た。
静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱちりと閉じた。
長い睫の間から涙が頬へ垂れた。――もう死んでいた」
この女性は漱石しか見ておらず、心の中に漱石しか存在しない状態で亡くなったといえます。
相手が死んでしまうのはいやですけど、なんとまあ、男冥利に尽きるといいますか、
一粒で二度おいしいではありませんが、そんなところもあるようにも感じます。
第一夜
漱石はある女性の枕元に座っています。
その女性は静かな声でもう死にますと言います。
「長い髪に輪郭の柔らかな瓜実顔。
真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。
大きな潤のある眼で、長い睫に包まれた中は、ただ一面に真黒であった」
かなりの美人です。
「黒い瞳のなかに鮮やかに見えた自分の姿が、ぼうっと崩れて来た。
静かな水が動いて写る影を乱したように、流れ出したと思ったら、女の眼がぱちりと閉じた。
長い睫の間から涙が頬へ垂れた。――もう死んでいた」
この女性は漱石しか見ておらず、心の中に漱石しか存在しない状態で亡くなったといえます。
相手が死んでしまうのはいやですけど、なんとまあ、男冥利に尽きるといいますか、
「憎いよ、色男」と冷やかしの一声でもかけたくなるシーンではあります。
女性は死の間際に
「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」
と言い遺して死にますが、なんと漱石さん、夢の中とはいえ、律儀に百年墓の前でじっと待っています。
あれ、夏目漱石ってそんなキャラだったかな(^_^;)どちらかというと短気で癇癪持ちだったような記憶が…
長い年月が経ち、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は女に欺されたのではなかろうかと思いますが、
女性は死の間際に
「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」
と言い遺して死にますが、なんと漱石さん、夢の中とはいえ、律儀に百年墓の前でじっと待っています。
あれ、夏目漱石ってそんなキャラだったかな(^_^;)どちらかというと短気で癇癪持ちだったような記憶が…
長い年月が経ち、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は女に欺されたのではなかろうかと思いますが、
墓石からすらりと一本の茎が伸びてきて、
心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと弁を開き、
亡くなった女性を彷彿とさせる真白な百合が咲きます。
「その濃厚な香が漂う百合に、自分は首を前へ出して、冷たい露の滴る、白い花弁に接吻した」
ときわめて美しく締めくくります。
字面だけ辿ると、漱石を恋慕っていた美しい女性が死んで、
「その濃厚な香が漂う百合に、自分は首を前へ出して、冷たい露の滴る、白い花弁に接吻した」
ときわめて美しく締めくくります。
字面だけ辿ると、漱石を恋慕っていた美しい女性が死んで、
真っ白な百合の花に生まれ変わって会いに来たという、メルヘンチックできわめて美しい物語です。
しかし大人になって、いろいろ知ってしまうと、
しかし大人になって、いろいろ知ってしまうと、
ちょっと意味深なような意味深ではないような、微妙な部分なきにしもあらずの感があります。
論者によっては、この第一夜はずばり漱石の浮気願望を露わにしたものだという人もいるようです。
夢分析というものが客観的にどれくらい正確なものかは知りませんが、
論者によっては、この第一夜はずばり漱石の浮気願望を露わにしたものだという人もいるようです。
夢分析というものが客観的にどれくらい正確なものかは知りませんが、
自分の直感的には、漱石の奥さん以外の女性に対する揺らぐ思いが、
確かに夢に現れているような気がします。
描写の節々に切ないというか悶々というか、そういったものを思わず感じてしまいます。
その女性はひょっとしたら特定の存在ではないかもしれません。
しかしそのように勘ぐると、少し夏目漱石という人物が卑近に感じられるというか、
描写の節々に切ないというか悶々というか、そういったものを思わず感じてしまいます。
その女性はひょっとしたら特定の存在ではないかもしれません。
しかしそのように勘ぐると、少し夏目漱石という人物が卑近に感じられるというか、
そういう印象を持つのも事実ではあります。