らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「お伽草子 浦島さん」太宰治

今回は「浦島さん」です。
お伽草子」はイメージ的には酒場かバーで太宰治と一緒に飲んでいて
「太宰、またこの前みたいな面白い話一丁してくれよ」
「よしきた、それじゃあ今日は浦島太郎だ」
てな感じで彼の周りにみんな集まってわいわい耳を傾ける的な楽しさがあります。

今回もいいですね。
やくざれな亀がすごくいい。正直亀を見直しました。なにか浜辺で煙草吸っていてもおかしくないキャラの亀ですが浦島さんとのやり取りで言ってることは素晴らしいです。
「あなたに冒険心が無いといふのは、あなたには信じる能力が無いといふ事です。」
「人生には試みなんて、存在しないんだ。やつてみるのは、やつたのと同じだ。実にあなたたちは、往生際が悪い。引返す事が出来るものだと思つてゐる。」
目からウロコの名言の連続です。
「亀なのにウロコとは」と亀に突っ込まれそうですが。

それにひきかえ浦島さんの高尚なことを言っているつもりの一連の発言には失笑の連続です。
言うことことごとく亀に論破されています。

浦島さんは老いた母一人子一人と記憶していましたが、この物語では田舎の名家の長男です。使用人も兄弟もたくさんいます。
長男浦島さんを評して曰わく、取り澄ましたみたいな口調善く言へば、風流。悪く言へば、道楽。
これは太宰治のお兄さんがモデルなんでしょうか。
浦島さんは亀にやられっぱなしですが、憎めなくて好きだと言わせてますのでそうなのかもしれませんね。
ちなみに「下品にがぶがぶ大酒を飲んで素性の悪い女にひつかかり、親兄弟の顔に泥を塗るといふやうなすさんだ放蕩者は、次男、三男に多く見掛けられる」っていうのは明らかに太宰治そのものですね。自虐ネタってやつです。

そんなこんなで皆さんもご存じのラストの玉手箱のシーンですが、
なぜ乙姫様が浦島さんに白髪のお爺さんになってしまうものを贈ったか太宰治がひとつの解答を与えています。
読む前に皆さんに考えていただくためにネタバレは控えますが、自分は読んであーそういう考え方があったのかと正直感心しました。
この解釈だと浦島さんはお爺さんになっても必ずしも不幸ではなかったことになります。
興味をもたれた方は自分であーでもないこーでもないと考えてみてから是非読んでみてください。