らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「お伽草子 浦島さん」追記 太宰治

【字余りのうた】の記事でも申し上げましたが、NHKで放送されている「日めくり万葉集」を毎日視聴しています。

その中でいわゆる浦島伝説に関する長歌が紹介されていました(巻9 1740 高橋虫麻呂)。

五七調のリズミカルなテンポで話が進み声に出して詠むと非常に心地よいです。
このテンポは日本語というか日本人の感覚に合っているんでしょうね。

この長歌の中には亀は竜宮城も出てきません。
乙姫様は海神の娘として登場します。
海神の娘と結婚し3年の間幸せに暮らしますが、家に帰って父母に報告しようと一旦住吉に帰ります。
ところが地上では何百年も経っていて、浦島は絶望して海神の娘から預かった玉櫛笥を開けてしまいます。
すると中から白雲が出てきて飛んでいってしまったので、それを取り返そうと頑張りますが、結局遙か彼方かにいってしまいます。
全てに絶望した浦島は一気に老けて挙げ句の果てに息絶えてしまいます。

世間一般に知られているような悲劇的結末ですが、それだけにこの後に太宰治お伽草子 浦島さん」を読むと、そのオチのもっていき方がユニークでとても面白いものだと思います。
なおこの万葉歌の住吉は今の大阪だそうです。

以下万葉集長歌を掲載します。
できれば声に出しながらお読みください。



春の日の霞める時に 住吉(すみのえ)の 岸に出で居て 釣舟の とをらふ見れば いにしへの ことぞ思ほゆる 水江の 浦島の子が 鰹釣り 鯛釣りほこり 七日まで 家にも来ずて 海界(うなさか)を 過ぎて漕ぎ行くに 海神(わたつみ)の 神の娘子(をとめ)に たまさかに い漕ぎ向ひ 相とぶらひ 言成りしかば かき結び 常世(とこよ)に至り 海神(わたつみ)の 神の宮の 内のへの 妙なる殿に たづさはり ふたり入り居て 老いもせず 死にもせずして長き世に ありけるものを 世間の 愚か人の 我妹子(わぎもこ)に 告(の)りて語らく しましくは 家に帰りて 父母に 事も告らひ 明日のごと 我れは来なむと 言ひければ 妹が言へらく 常世辺(とこよべ)に また帰り来て 今のごと 逢はむとならば この櫛笥(くしげ)開くなゆめと そこらくに 堅
めし言を 住吉(すみのえ)に 帰り来りて 家見れど 家も見かねて 里見れど 里も見かねて あやしみと そこに思はく 家ゆ出でて 三年の間に 垣もなく 家失せめやと この箱を 開きて見てば もとのごと 家はあらむと 玉櫛笥(たまくしげ) 少し開くに 白雲の 箱より出でて 常世辺に たなびきぬれば 立ち走り 叫び袖振り こいまろび 足ずりしつつ たちまちに 心消失せぬ 若くありし 肌も皺みぬ 黒くありし 髪も白けぬ ゆなゆなは 息さへ絶えて 後つひに 命死にける 水江の 浦島の子が 家ところ見ゆ