らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「御伽草子 瘤取り」太宰治

実を言うとブログで太宰治作品の感想はあまり書きたくありませんでした。
というのは作品外の作者の情報が出回り過ぎて読む時にそれに引きずられてしまい作品そのものを味わうことがなかなか難しいからで、どうしても太宰治の一連の言動行動のフィルターを通して作品を見てしまいます。
これは彼自身が招いた部分があるにしろ作家太宰治にとっても不幸なことかもしれません。

しかし御伽草子に限っては太宰治のそういう部分があまり気になりません。
誰もが知っている昔話をアレンジし少々の皮肉をふりかけて話し手はおすまししながら語っているちょっとした楽しい大人の童話風に仕上がっています。

瘤を唯一の家族と愛でる酒好きのお爺さんは太宰治自身で、賢いけどお爺さんの本当の気持ちをわかってくれないしっかり者のお婆さんは美知子夫人でしょうか。
息子の阿波聖人や隣のお爺さんなどは日頃太宰治が秘かに馬鹿にしたり、煙たがっていたりしている実在の人物だろうと思われます。
小説の中で仕返ししてざまあみろとペロッと舌を出してるのやもしれません。
特に隣のお爺さんのやりこめられぶりはすごいものがあります。若い奥さんの紹介に始まり鬼の前で妙な舞踊を披露するまでのくだりは電車の中で読んでいて思わず声を出して笑いそうになってしまいました。

こういう深刻にならないおちゃらけ気味の太宰はとても愛嬌があって面白いものがあります。
この手の茶目っ気ある作品をもっと作って欲しかったような気もします。

でも彼はそういうおちゃらけた自分は嫌いだったんでしょうね。
人間失格」冒頭の1枚目の写真の子供の笑顔が嫌いだったように。
嫌いとまでいかなくとも仮面をかぶった姿だと思っていたかもしれません。
しかし御伽草子は太宰を知っていればより一層面白いのですが、そうでなくても気楽に読める面白い作品に仕上がっていると思います。
太宰治食わず嫌いの人もとっつき今ひとつと思っている人も一度読んでみていただければと思います。
太宰治の本質ではないと言われる方もいらっしゃるかもしれませんけども。