らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【美術】クリムト4 「ベートーベン・フリーズ」

 

 

 

  

 

 

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クリムト「ベートーベン・フリーズ」

 


これは一枚の作品ではなく、長い方形の部屋の三面の内壁に描かれた作品です。

その全容については、こちらの映像をご覧になってください。

 

 

 

 

 

 

 

 

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第一の壁に幸福への憧れを象徴する精霊が現れる

ひざまずく男女は弱い人間の苦悩を表し彼らは黄金の騎士に懇願する
騎士は憐れみと野心に突き動かされ行く手を阻む悪に立ち向かう

 

 

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第二の壁に悪の化身が現れる
脇には肉欲、淫蕩、不節制の擬人像が立っている

うつむき身をすくめる激しい苦悩の上を人間の様々な憧れと願いが飛び越えていく
幸福の憧れは詩情を目指しその中に安らぎを見いだす

 

 

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諸芸術に案内され
純粋な喜び 幸福 愛を見いだすことができる理想の世界に導かれる

 

 

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楽園の天使たちの合唱
喜びよ うるわしき神の火花よ
口づけをあらゆる世界の人々に


部屋の真ん中に立つと、ぐるりと叙事詩的な絵巻物に囲まれ、

ある種、不思議な感覚。
荘厳であり、血湧き肉躍る瞬間もあり、そして静謐でもあります。

 

この絵画、ベートーヴェン交響曲第9番をモチーフにしてるそうですが、
音楽のイメージを絵画に描くというのは非常に面白いものです。

 

しかしながら、ベートーベンの第9からは、
自分的にはこんな発想は生まれて来ませんでした。

金の甲冑をまとった騎士、野性味あふれる巨大なゴリラ、
古代ギリシャ的な竪琴を持った女性、歌を歌う女神たち・・・

 

自分の感じるところでは、ベートーベンの第9というのは、
人類愛というものを感じても、男と女という性を意識させない。
及びそれにまつわる感情というものも感じさせない。

 

そして第9の世界は時空を超えた普遍的なものであり、
古代的中世的という特定の時代のイメージというのもあまり感じさせない。

 

クリムトはこんな風にベートーベンの第9を捉えていたのかと、
その時はいささか不思議な感覚でしたが、
家に帰って購入した図録の解説を読んで、合点がいきました。

彼はベートーベン第9に関するワーグナーの叙述的な解釈を
下敷きにしてこの絵を描いたそうなんです。

 

 リヒャルト・ワーグナー

 リヒャルト・ワーグナー肖像

 

あー、ワーグナーならば、この世界観というのは合点がいきます。

ワーグナーの音楽の世界観というのは、
古代的中世的な時代背景に英雄や悪魔が跋扈跳梁し活躍する世界。

 

 

クリムトのこの作品も、自分的にはベートーヴェンの世界というよりも、
ワーグナーの世界といった方がしっくり来ます。
正確には、ワーグナー的解釈を経たベートーベンの世界というべきなのでしょうけれども。

クリムトの作品のその迫り来る迫力は、素朴な人類愛というよりも、
ちょっと時代がかった19世紀的ベートーベンというところでしょうか。