【美術】クリムト5 「ユディト Ⅰ 」
「ユディト Ⅰ」
クリムトの代表作の一つ。
今回のクリムト展のポスターでも使用されていましたが、
自分はあまり、この作品にピンと来ていませんでした。
しかし、本物を目の当たりにして、
金色に彩られた女性の表情がなんと悩ましく妖艶で美しいことか。
女性のヌードの作品は今までもいくつか見てきましたが、
その女性の吐息のぬくもりを感じるような、悩ましい美しさは、
他の画家の作品では感じられないものです。
しかし、そうかといって退廃的ではない。
クリムトというと退廃的な美と言われることがよくありますが、
今回の美術展のクリムトの作品で、退廃的と感じた絵画はひとつもありませんでした。
感じたのは、美についてとことん究めようとする画家の真摯な眼差し。
この作品の、女性が手前に抱えている、
死して黒ずんだ男の生首と相まって、女性の生き生きとした美しさが浮き上がって、
思わずため息をついてしまいます。
このユディトとは、古代の旧約聖書に出てくる逸話を題材としたものです。
美しく信心深い未亡人ユディトは、ベトリアという小さな街で平和に暮らしていましたが、
そんなある日、ベトリアにアッシリアの軍隊が侵攻し、街を包囲してしまいます。
敵の大軍を囲まれた住民は降伏しようとしますが、
そんな中、ユディトは一計を案じ、
アッシリアの司令官であるホロフェルネスに面会を求めます。
美しいユディトの訪問に喜んだホロフェルネスは、
彼女を招き入れ。酒宴の席を設けます。
ユディトは、すっかり油断して酔いが回り、寝込んでしまった
ホロフェルネスを押さえつけ、その首を切り落とします。
司令官を失ったアッシリア軍は動揺し、ベトリアの軍の反撃を受け、全滅しました。
というお話なんですが、
実はユディトは旧約聖書を題材にしていることから、
中世より絵画のテーマになってきました。
クラナッハの作品
クラナッハはクリムトより400年前に活躍した画家ですが、
その作品のユディトは、また違った意味で魅力的ではありますが、
まだまだ固定的な倫理観たる貞淑というような宗教的道徳の中に、
描かれた人物が閉じ込められているようなところを感じます。
それに比べると、クリムトのユディトは遥かに自由です。
クリムトの作品は、そんなストーリーは知らずとも、
生きた生身の女性の美しさというものを感じ取ることができるものです。
旧約聖書の逸話を描いたというよりも、
それにかこつけて、敵の司令官すらも虜にしてしまうほどの
女性のしなやかな美というものを描いている。
この作品は生身の女性の美しさというものをテーマにしてきた
クリムトの代表作であることは間違いありません。
今回展示された全クリムト作品の中で、どれかひとつ好きな絵をあげるといわれたら、
自分は躊躇なくこの「ユディト Ⅰ 」を選びます。