らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「クリスマス・キャロル」ディケンズ・チャールズ









今年最後の本記事は、やはり文学のブログらしく、文学の記事で締めようと思います。


クリスマス文学の定番「クリスマス・キャロル」 。




https://youtu.be/GSo2HBblD6g



一般に知られているあらすじを述べますと、
人嫌いで意地悪でケチな老人スクルージのもとに、ある日死んだ友人の霊が現れ、
スクルージ老人の過去、現在、未来を見せることにより、
その頑なな心を諭し、
結果、彼は改心し、クリスマスを皆と共に分かち合って楽しく過ごすというもので、
キリスト教的美徳に満ちたお話となっています。

しかし細かく読んでいくと、かなりツッコミどころのあるこの作品。

スクルージさんは、部屋を暖めるための木炭や明かりのお金すら惜しむほどのケチで、
クリスマスパーティーに誘いに来た甥っ子に、
クリスマスなどくだらんと吐き捨てて嫌味を言う。
ケチなだけでなく、冷酷で、愛情や優しさとは無縁で、
金を稼ぎ蓄えることしか考えない人物と、散々にこき下ろされていますが、
クリスマスなどくだらんという人、結構今の世には多いのではないでしょうか(^_^;)

それに、よくよく読んでいくと、スクルージさん、そんなに悪い人ではない。

現に彼の甥っ子はクリスマスパーティーに誘うために、
彼とフレンドリーな会話をしてますし、
彼の雇人にもきちんとクリスマス休暇を与えており、
雇人もスクルージのためにクリスマスの祈りを捧げています。
そして法律を遵守し税金もきちんと払っている(笑)

本当に冷酷非情で愛情や優しさに無縁の人間だったら、
甥っ子は寄り付きはしないでしょうし、雇人も辞めてしまっているでしょう。
そして何よりも彼の会計事務所はそれなりに繁盛しているわけですから、
世間的には社会的信用を得ている人間として認知されているわけです。

貧しい若い頃から針一本積んでいくように蓄えを積み重ね、
今に至ったスクルージさんとしては 、
クリスマスなんだからドーンと寄付をしてくださいよと言ってくる輩の軽々しさが我慢できなかったのかもしれません。
そういう意味では、頑固な職人気質の人といえます。

直接彼と接している甥っ子や雇人はそれが肌でわかっているんですね。
彼のことを守銭奴だの冷酷だのと罵倒する人々は、
直接彼と接することのない、噂でしかスクルージさんを知らない人なのではないでしょうか。

そうだとしても、死んだ親友の棺桶から三途の渡し賃の六文銭を抜き取ってしまったのは、
スクルージさん、ちょっとやり過ぎでした(^_^;)
それがもとで親友の幽霊に恨みを買い、スクルージさんは脅されることになります(笑)

親友の霊に導かれ、三人の精霊と会うことで、
過去と現在と未来のビジョンを垣間見ることになりますが、
スクルージさんのこの体験は非常に重要なことを示唆しています。



過去は悔い改めて改心にすることでリカバーすることができる。

現在はまさに今自分が変わろうとすれば変わることができる。

未来は何が起こるかわからない 。
しかし自らの意志で変えることができる。


未来はどうなるか分からないからこそ、不安なわけで、
キリスト教をはじめとする宗教というものは、
今のままだとあなたは将来不幸になります、地獄に落ちますから、
〇〇教に帰依しなさいというようなことを言うわけです。

現代は将来に対する不安に満ちています。
それでは未来を確かにするため、一体どうしたらいいのか。

何かにすがって生きるというのも一つの手であるでしょう。
しかし、自分にはこの時、
「犀の角のようにただ独り歩め」という釈迦の言葉が思い当たります。
愚鈍でも目の前の確かに存在する一歩を踏み締めて、
のろまでも今をしっかりと一歩ずつ進めという教えです。
https://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/11306778.html


しかしながら、スクルージさん、
とにもかくにもキリスト教的美徳にどっぷりと頭から漬けられ、
結果、皆に気前良く施して迎い入れられ、楽しくクリスマスを過ごすというハッピーなエンドを迎えますが、
そんな憑き物が取れた定型的な善人になったスクルージさんよりも、
自分的には、本当はクリスマスなんて祝いたくないんだと、しかめっ面をしながら、
皆が楽しんでいるクリスマスパーティーでずるずるスープをすするというような、
彼らしいエンディングでも面白かったのではないかと思います。


しかしながら、この作品、人間が生きていく上で、とても重要なことを教えてくれます。

ほんの僅かな思いやりでも、そのごく小さな暖かみは、
周り全体を暖かくしてくれる。

一本のろうそくの灯が部屋全体を明るく暖かくしてくれるように。

だから小さいからといって、その僅かな優しさを粗末にするべきではない。
そういうものが自分にあるのであれば、人に施すべきであるし、
人から施されれれば、それを受けるべきである。


皆様それでは良いクリスマスを。






青空文庫 ディケンズ・チャールズ「クリスマスキャロル」