らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【クラシック音楽】同曲異演奏の魅力 スクリャービン エチュード8-12







今回は、前にやりました同曲異演奏の魅力という企画をやってみたいと思います。
以前、「ラ・カンパネラ」を取り上げましたが、

今回は「悲愴」という曲です。


クラシック音楽でピアノ曲「悲愴」といいますと、
ほとんどの人が、ベートーベンのピアノソナタを思い浮かべると思いますが、
実はもうひとつ「悲愴」とタイトルがつけられているものがあります。
スクリャービン作曲 エチュード8-12

ひょっとしたら、スクリャービン自体ご存じないかもしれません。







アレクサンドル・ニコラエヴィチ・スクリャービンは、
ロシアの作曲家、ピアニストで、1872年- 1915年に生きた人ですから、
まだたかだか100年くらい前の人です。

それでは、どんな曲なのか。
なにはともあれ、スクリャービンの「悲愴」を聴いてみましょう。


まずは、ホロヴィッツ、20世紀最高のピアニストのひとりといわれた演奏家の演奏です。




https://youtu.be/7ClDFmFmr0k

自分は、このホロヴィッツの演奏で、この曲に目覚めました。
全てが力強く、輝きに満ちていて、光が放たれ続けている。
まさにヴィオルトーゾにふさわしい堂々とした自信に満ちた演奏。

しかし、「悲愴」という曲のタイトルからしますと、
ほのかに見える移ろいゆく陰影が、耀きの強烈な光にかき消されてしまって、
曲に似つかわしくないという人もいるかもしれません。



次に、この曲は、なんとスクリャービン自身の演奏もあるんです。
1910年代に吹き込んだ100年前の演奏をリマスター化したものですが、
今のリマスター技術はたいしたものです。
https://youtu.be/VfYMFNjSMnU

ホロヴィッツを聴いた後ですと、やや地味に聴こえるかもしれません。
しかし、終始、一見淡々とした流れの中、陰影の濃淡が見事に表現されており、

かつ内に秘めた情熱に欠けるところもない。
非常にバランスのよい調和に満ちた佳演に感じます。

作曲者ですから、この曲のことを一番よく知っている。という事は間違いないところでしょう。



最後にフランスのピアニストであるコルトーの演奏を紹介します。




https://youtu.be/veTBYFlzerM

なんと濃厚な色気に満ちた演奏なのでしょう。
色気といっても、媚びるとかそのようなニュアンスは皆無で、
ホロヴィッツとはまた違う光が放たれている、直線的でない妖しさがあるといいますか、

音色から濃厚な香りが漂っているといいますか、
ゆったりと優しく撫でつけるようなその演奏の艶やかさに、
聴くたびに思わず溜め息をついてしまいます。



では、これらの演奏の中でどれが最も優れた演奏といえるでしょうか。

クラシック音楽とは、作曲者がどういう意図、思いで作曲したかを楽譜から読み解きながら、
それに沿うような演奏を心がけるべきだという意見があります。
よく、コンクールなどではそのような趣旨のことがいわれます。


そうしますと、作曲者が自分の作った曲の意図を最もよく知っているわけですから、
この記事でいえば、スクリャービンの演奏で決まりということになりそうです。

そして、作曲家の演奏が残されている曲の演奏については、
後世の演奏家達は太刀打ちできないという事にもなってしまいそうです。

しかし、自分は、クラシック音楽の魅力は、
そんな狭いレンジで語られるべきではないと思っています。

ホロヴィッツ、コルトーそれぞれタイプは違いますが、
両者の演奏を聴いて共通して感じるのは、偉大なる素晴らしい感性の重なり合い。
すなわち、作曲したスクリャービンの感性に、

演奏する、違う人間の感性が重なることにより、曲の魅力が無限に広がってゆく。


それぞれを聴いていただければわかりますが、
スクリャービン独りでは表現することができなかった

美しい世界がその演奏から広がっています。
ですから、クラシック音楽の演奏の決定版とは、作曲者自身の演奏で決めを打つようなものではなく、
後世の演奏家達の感性が重なり合うことによって、

これからも無限に名演が生まれる可能性がある。
自分はそのように思います。

人と人との感性の重なり合いとは、独りでは決して生み出すことのできない、
人間の可能性を無限に広げるものです。
これはクラシック音楽の演奏に限ったものでなく、人間の営み全てにいえることなのかもしれません。









※スマホで、YouTubeが上手く再生できない場合は、
 下の四角の矢印が出ているところをクリックしますと、
 アプリケーションの選択となりますから、
 そこでYouTubeを選択しますと再生できます。
 お試しになってみてください。