らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【万葉集2017】4 古りにして 嫗にしてや






古(ふ)りにし
嫗(おみな)にしてや
かくばかり
恋に沈まむ
手童(てわらは)のごと


石川郎女


こんなに年を取ってしまった
お婆さんなのに
どうしたことでしょう
これほど恋にのめり込むなんて
まるで幼子みたい



今回の万葉集シリーズ最後の記事となります。

今の感覚からすると、
お婆さんというと70代くらいかなと思ってしまいますが、
この歌を詠んだ石川郎女は当時40代。
しかし、人生50年の当時からすれば、
確かに人生のたそがれに入っていた時期といるかもしれません。


これも素敵な恋の歌だと思います。
落ち着きがあって、しっとりとしていて、
そして、なんともいえぬ温もりを感じさせる歌です。

奈良時代の人々というのは、恋の仕方が本当に上手いですね。
上手いというと、テクニカルな感じに聞こえてしまいますが、
恋が人生の一部としてしっかり組み込まれているといいますか、
自分の心から生まれ出た恋心をとても大切にしている。

現代は、恋が成就するのかしないのかそればかりを気にして、
引っ込み思案になったり、億劫になったり、ぐるぐると悩んだり、
テクニックに走ったり、
せっかく生まれ出ずる恋を壊してしまったり、
いびつに形を変えてしまっているようにも思えます。

それに比べて、奈良時代の人々は、生まれ出た恋を、
そのままのかたちに大切に育てるといいますか、そんな感じがします。

恋というのは成就するかどうかは、
巡り合わせやら縁やら、人知を超えたところがあって、
必ずしも上手くいくとは限りません。
ならば、成る成らないを気にし過ぎるよりも、
堂々と健全に、いい恋をすることが人を成長させるといいますか。
奈良時代の人々はそのことを知っていたのだと思います。

現代にはない逞しさと豊かさを、
この時代の人々の心から感じざるを得ません。