らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【万葉集2017】1 春過ぎて 夏来るらし






春過ぎて
夏来(きた)るらし
白妙の 
衣干したり
天の香具山


持統天皇


春が過ぎて
夏がすぐそこまで来たらしい
洗濯した真っ白な
衣が干して(風にたなびいて)
緑の天の香具山に映えている



まだ首都圏は梅雨の真っ最中ですが、
徐々に徐々に夏の気配を感じます。
それは千年前の人々も同じだったのかもしれません。

非常に色彩が絵画的で美しい歌です。
生き生きとした緑の香具山。
梅雨の開けたどこまでも広がる真っ青な空。
そこに夏の風にはためく洗濯干しされた白い衣。

洗濯洗剤のCMで、青空に白い洗濯物がたなびいている絵のものがありますが、
https://youtu.be/VDAXxm1m2R8
絶対に、この歌にインスピレーションを受けていると思いますね(笑)

それほどに、白がとても鮮やかに浮き上がっている。
そう、この歌のメインの色は白なんです。
歌を詠んだ持統天皇は、白という色彩を、
いきいきと生命が躍動する夏の色として捉えている。

そして、それは、彼女自身の心の内と重なるところもあるのかもしれません。
この歌をどういう状況下で詠んだのかは伝えられていませんが、
古代史が好きな方は、その思いに馳せてみるのも面白いかと思います。



ちなみに、この歌、百人一首にも取り上げられていて、
そこでは、


春過ぎて
夏来(き)にけらし
白妙の 
衣干すてふ
天の香具山


春が過ぎて
夏がやって来たらしい
真っ白な
衣を干すという
天の香具山に


と、第二句と第四句が違うのですが、
自分は万葉集の歌の方を断然取ります。

まず、歌のリズム感が素晴らしい。
「きたるらし」の音の方が、「きにけらし」より、
より直載的に夏らしい開放感を感じませんか。

そして、もうひとつ、意味的にも、
「夏来にけらし」とは、来にけるらしですから、夏がやって来たらしいというほどの意味ですが、
「夏来(きた)るらし」とは、夏がすぐ間近まで来たらしいというニュアンスになります。
前者は、夏が来た現在の情景を詠んでいるという感じですが、
後者は、夏の気配を感じさせる、夏がすぐ間近まで来ていて、
来(きた)るべき夏を想像させる広がりを感じさせるんです。

また、百人一首の第四句は、少々説明調っぽくって、
夏のつきぬけるような、シンプルかつ素朴で雄大な感覚に似つかわしくない。
詠んでいて、初夏の気持ちいい風を感じないんです。

どちらが優れているというわけではなく、
好みの問題に過ぎないのかもしれませんが、
夏の訪れを感じる心がダイレクトに飛び込んでくる万葉集の歌を、
自分はこよなく愛するものです。