らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「幼年時代」柏原兵三 教科書名短篇より



物語に出てくるエダムチーズ



これは中学の教科書に載っていたのをよく覚えています。
なぜ、記憶が鮮明かといえば、
物語の中で、父の書斎にあったチーズを、
兄弟達がこっそり食べてしまうエピソードがあるのですが、
そのチーズが美味しそうで美味しそうで(笑)

なぜ、こっそり隠れて食べる食べ物って、
こんなに美味しそうにみえるんでしょう。

この作品に出てくるお父さんは、いわゆる普通のサラリーマンとは違う、
ちょっとインテリジェンスな雰囲気を持っている人です。
帰宅すると、自らの書斎で勉強をして、
チーズやら珈琲などハイカラなものを食べています。

このお父さんは厳格な方なので、
子供達は、書斎に勝手に入らないよう厳しく言われているのですが、
入っちゃいけないと言われている場所というものは、
少年にとって、何ものにも耐え難い魅力が溢れているものです。
それを作者は、父の書斎を「探険」すると表現していますが、
実に言い得て妙で、
少年の心を非常によく掴んでいると感じます。

ちなみに、井上陽水さんの主題歌でも有名な映画「少年時代」は、
柏原兵三さんの作品「長い道」を藤子不二雄A氏が漫画化して、
それを映画化したものだそうです。
https://youtu.be/01gKRpKLIOg


この作品は、あの映画と同じく、
懐かしく、なんともいえない郷愁を感じさせるような雰囲気のものとなっています。

さて、秘蔵のチーズを食べてしまった三人の兄弟に対して、父が下した裁定ですが、
三人の男の子達は観念して、お父さんに正直に白状します。
このやりとりが非常に微笑ましく、コミカルで、
父と幼い兄弟たちのふれあいを描いた、
この物語の大きな魅力となっています。

お父さんは怒るのを諦めて、
もう僅かしか残っていないチーズを三等分してひときれずつみんなに与え、
今後無断で絶対に書斎に入らないことを子供達に誓わせ、
赦免して物語は終わります。

親の包みこむような愛にくるまれて成長する子供達の幸せというものを、
全編にわたって感じさせるものとなっています。 

ただ、これを読んで、
非常に日本的な親子のふれあいの情景だなと思うところがあります。

子供の頃、自分は、米国の「アーノルド坊やは人気者」というホームドラマを好んで観ていました。 
http://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/9514762.html

いってみれば、日本は、あたかも、
大人と、大人に完全に庇護される子供という2つの種類のものがある感じですが、
アメリカのこのドラマのそれは、
自律した人間と自律途上の人間の1つの種類という感じなのです。

この「幼年時代」では、父と子の間に、
なぜ書斎に入っては駄目なのかという話し合いは全くありません。
父の作った規則に違反した。それは悪いこと。という一点のみ。

しかし、アーノルド坊やのドラマのそれでは、
父が子供達と、それについて話し合います。
子供だからわからないだろうという一方的な態度ではなく、
一個の人間として接して、その意見を尊重し、
その中でお互いのルールを作っていくのです。

ところで、日本式の場合ですと、
子供から大人という、別の種類のものになる瞬間があるということになります。
その瞬間を逃してしまうと、
いつまでも子供のままにとどまってしまうことがあるのではないか。

親と子のあり方、接し方について、
ちょっといろいろなことを思い出し、感じた作品でした。