らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【絵画】安田靫彦展 うつくしき男たち












5月のゴールデンウィークを利用して行って参りました安田靫彦展。
なんでも美智子皇后様も近々にいらしたそうで、
かなりの混雑を覚悟していたのですが、意外にゆったりと見ることができました。

安田靫彦といいますと、美術の教科書でもおなじみの日本画の大家ですが、
それだけにその作品は各地に散らばっており、
1976年以来40年ぶりに一堂に会した大回顧展となるそうです。
その作品数は100点以上。
歴史が好きな自分としても歴史画の大家であるこの安田靫彦展、
とても楽しみにしていました。




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「遣唐使」

16歳でこれほどの作品を描けるとは、
空間を捉えて表現する技術は、この時すでに完成の域に達しており、
並々ならぬ生来の絵画的センスを感じさせます。
この作品は遣唐使の多難な航海に先立ち、その使節と家族の別れを描いたものですが、
別れを惜しむ人々の心情を瞬間的に捉えた佳作であると感じます。


安田靫彦の描く対象は、男であれ、女であれ、花であれ、
おしなべて涼やかな美しさを持っています。
しかし、その中でも自分がひときわ美しさを感じるのは男性を対象として描いた作品。
その澄んだ涼やかな表情に、なんともいえぬ色気が漂っており、見る者を惹きつけます。

というわけで今回は「うつくしき男たち」と題して記事を書きたいと思います。



中でもやはり特筆すべきは有名な「黄瀬川陣」。







平家に大勝した富士川の合戦の直後、黄瀬川宿にて弟源義経が兄頼朝のもとに馳せ参じ、
初めて出会った故事にちなんだものですが、
美しい男たちがまるで生きているように見る者に迫ってくるものがあります。

威厳に満ちて腰を下ろしている頼朝に、キリッとした表情の義経。
どちらの男たちもいずれ劣らず美しい。
そして、二人ともいささかの乱れもなく静やかです。

これほど男たちに華を感じさせる作品もそうそうないでしょう。
男の自分が見ても惚れ惚れする作品です。






「夢殿」

瞑想する聖徳太子。
その顔は、夢に現れた聖なる僧侶達よりも天女のような女たちよりも際立って美しい。

清涼なる恍惚感とでもいいましょうか。
夢と現(うつつ)の間にただようような聖徳太子のその表情は、
ともすれば恍惚というと下世話なことを想像しまいがちですが、
その認識を改めさせてくれる高貴な魅力に満ちています。






「草薙の剣」

これまでの二点とは異質な男の美しさを描いたものです。

古事記によりますと、駿河国にて国造に欺かれたヤマトタケルノミコトは草原で野火に囲まれます。
絶体絶命に陥ったヤマトタケルノミコトは草薙の剣で火を薙ぎ払い、
風向きを変え難を免れたという故事に基づく作品です。

この作品は今まさにカッと目を見開いて剣で炎を薙ぎ払おうとする瞬間を捉えたもの。
見ていると、迫り来る炎の熱さと共に、
呼吸がむせてしまうような熱い空気の圧迫感を感じさせます。
今、まさに来たらんとする炎に立ちはだかるヤマトタケルノミコトに、
心配そうに手をたずさえるオトタチバナヒメ。

微動だに心乱れることなく、今まさに真正面から困難に立ち向かわんとする男の美しさ。
男の美しさとはかくあるものという事を知らしめる作品です。



長くなりましたので、
次回はその他に感じ入った作品を「うつくしきものたち」と題して記事を書きたいと思います。