らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【絵画】モーリス・ユトリロ

 



 

 

 
自分にとって、ユトリロは、とても好きな画家のひとりです。
以前は、自分の部屋にユトリロの複製画を飾っていたほど。

ユトリロの絵の何に惹かれるか。
あの何気ないパリの街並みの構図が好きなんです。
建物や街路の直線や曲線の組み合せと空間の配置が、
絶妙に調和がとれていて、そこにユトリロの白がしっくりとハマっている。
すっきりとして美しく、無理がない。
飽きずに、いつまでも眺めることができます。

今回、初めて実際に、ユトリロの作品を観ましたけれども、
絵を描き始めて間もない20代前半には、
既に、彼独自の画風は、その片鱗が見られるように感じました。




そもそもユトリロは、アルコール中毒の療養から、
母ヴァラドンから絵画を描くことを勧められたそうで、
全くの我流で絵を描き始めたそうです。

おそらく、芸術的感性のようなものは、
母から受け継いだものが多分にあったのかもしれません。
ただ、ヴァラドンは息子に絵を描くことを勧めるだけ勧めて、
自ら教えるということは全くなかったそうです(^_^;)


しかし、独学で絵を描き続けたユトリロは、次第に画力が上達し、
やがて有名な白の時代を迎えます。

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ユトリロといえば、白というほど有名なものですが、
自分は作品によってはあまり好きではありません。
白が寂しげというか、ぽつんとしているというか。
作品からほとんど人の気配のようなものを感じないのです。

ひょっとしたら、同時期に、母ヴァラドンが、
20歳以上年の離れたユトリロの友人と再婚し、生活に変化が生じたことが、
ユトリロの心に微妙な影響を与えていたのかもしれません。

このように情緒不安定になったり、再び酒浸りになったりしたユトリロですが、
徐々に落ち着きを取り戻してゆき、次に到来した色彩の時代。





 
 
どちらかというと、この時代の作品の方が、自分は好きです。
白をベースとした作品に、緑や茶色、赤といった色彩が加えられ、
絵にある種の奥行きを増している。
それは樹木の緑であったり、窓枠の緑色だったり、煙突のレンガの赤であったり、
国旗の色であったりで様々ですが、
白の時代のような寂寥感はありません。

ユトリロは、自分の作品に、人物をほとんど描き込まなかった人です。
色彩の時代においても、白の時代と同じく、
人物が描き込まれていない作品は多いのですが、
そのひっそりと静かな雰囲気の中にも、
不思議に活気といいますか、人の賑やかな気配のようなものを確かに感じます。
ささやかであるかもしれないけれども、
新しい何かを表現してみようとする、
内気なユトリロの、前に進もうという意志を感じるような気がするんです。


ところで、この美術展で、大変面白いものを見つけました。

額に飾ってあったユトリロの金属製水彩パレット。
最初、遠目から見た時は、パレットを描いた絵かと思ったんです。
パレットに残った絵の具の色合いに、
芸術的な感性的なものを感ずるところがあったのです。

実をいうと、母ヴァラドンのパレットもあったんですが、
彼女のパレットはやや品がない(笑)
間違ってもパレットを描いた絵と見間違うシロモノではありません。

ブログを見てくださる方にぜひ見ていただきたく探したのですが、
残念ながら画像が見つかりませんでした。
ひょっとしたら、この二人のパレットが、
この美術展で一番見て欲しいものかもしれません。
美術展に行かれる方はぜひ見てみてください。


最後に、母ヴァラドンが亡くなってから、ユトリロの描いた作品。
心なしか母に似た輪郭線の太い作品が散見されます。




しかし、その輪郭線は、母ヴァラドンの作品のように、
力強く対象を捉えようとする意志のようなものを感じるものではありません。
作品としても、少々出来が劣ってしまっているようにも見受けられます。
晩年の彼の作品は、出来不出来の差が激しい、
というか、不出来なものが多いような気がします。
明らかによれよれとした感じがあり、
老成とは違う、衰えみたいなものを感じざるを得ません。
観ていて、ちょっと寂しい感じがします。

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/mventura/20150419/20150419223627.jpg


ところで、前に、母ヴァラドンが、息子であるユトリロを描いた作品を紹介しましたが、
逆に、息子であるユトリロが母を描いた作品は、実は見当たらないのです。
今回の美術展はもちろんのこと、検索してもヒットするものがありませんでした。

彼が長年、親しんで描いてきたパリの白の街並みの作品に、
母親の作品の特徴である太い輪郭線。
これが彼の描く母の精一杯のものだったのかも知れません。