らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「積もった雪」金子みすゞ

 



 
上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。

下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。

中の雪
さみしかろな。
空も地面(じべた)もみえないで。





金子みすゞは、東日本大震災の年、
テレビCMの「こだまでしょうか」の詩で、一躍広く知られるようになりました。
今回は冬のこの時期にふさわしい作品を紹介したいと思います。

自分がテキストにしている本の、この詩にまつわるエピソードが非常に印象的でして、
編者が、金子みすゞの詩が好きな人たちと、北海道の流氷を見に行った時のこと。

自分らを迎えてくださった地元の責任者の方が、
この「積もった雪」を諳(そら)んじてくださったそうです。
そして、その人がおっしゃるには、
「私は七十を過ぎたこの年まで、毎年たくさんの雪を見てきたけど、
一度も中の雪のことを考えたことがありません。
本当に大切なことを見ることもなく、
この年まで生きてきた自分がはずかしい。」
と思わず涙をこぼされたとのことです。


他の人間が、見過ごして、
そのまま通り過ぎてしまうような
ささやかな存在に気付き、
それに優しい心をかけようとする繊細な感性と情感。
その人は心の琴線がそれに触れたのでしょう。

その感性は、時としてぞんざいに扱えば、たちまち折れてしまいそうな脆さすら感じることもありますが、
それは彼女の作品に総じて共通するものであり、
この詩にも、よくそれが表れているように感じます。

月の光が煌々(こうこう)と照った
冷たい雪が降り積もる誰もいない夜に、
誰もが見過ごしてしまうような対象に対する作者の思いやりの心、いたわりの心が、
ほんとうに小さいけれども、
ほんのりと灯る温かさのようなものに感じさせます。

金子みすゞの作品は、女性特有のウェット感が、詩が一定のリズムを刻むことで、それが行き過ぎるのを抑え、
ある種の静かな落ち着いた、軽やかさのようなものを醸し出しているように感じます。

かように静かな落ち着いた軽やかさをもち、優しい柔らかい女性的な詩でありながら、
その繊細で鋭い感性から導き出される作品のインパクトは、
ずしんと強く深く心に帰するものがあり、
他の詩人には見られない独特の存在感をもった詩人であると感じざるにはいられません。







 
なお、今週末から実家に帰省しますので、
本編の記事は今回が今年最後のものとなります。
あと週末に【12月総括】の記事を書いて、
今年の記事を締めたいと思っています。

1年間いろいろお付き合いいただきまして
本当にありがとうございました(^^)