らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【絵画】「風立ちぬ原画展」横浜そごうにて

 

 
 
お盆真っ只中も相変わらず仕事だったのですが(-.-;)
いつもより仕事が少し早く終わった、そのちょっとした隙間を利用して、
横浜そごうで行われていた「風立ちぬ原画展」に行ってきました。
http://www.ghibli.jp/10info/009341.html

上のサイトにも説明がありますが、
映画「風立ちぬ」の制作初期段階に、
宮崎駿さんによって描かれたイメージボードや、
キャラクター設定や背景画など原画100点以上を揃えた展示会です。

宮崎駿さんのデッサンというのは、
ものによっては、とてもシンプルな線なんですが、
たとえそれが人物の顔であろうと風景であろうと、
彼の絵だと一目ではっきりとわかる個性的なもので、
そして、シンプルでありながら、
これほどの多彩な表情を描き分けられるものなのかと、
思わず見入ってしまいました。

デッサンによっては、水彩絵の具で色づけされているんですが、
いい意味で鮮やかな、悪い意味でどぎつい、原色系の色は使用されておらず、
総じて優しい中間色で彩られています。
自然の風景の緑色と空の青色、そして夏の雲の白色が
自分にとって非常に印象的でした。

そして飛行機の絵、三翼の三層のプロペラ機の絵などは、
これは実在したモデルがあるそうなんですが、
それをベースに、宮崎さんが自由に創造力を羽ばたかせて、
楽しんで描いている様子が、
絵からにじみ出てくるような、そんな感じがしました。

http://livedoor.blogimg.jp/complete_agent/imgs/1/6/16b7fede-s.jpg

また宮崎さんの描く人間は、子供がそのまま大人になったような
優しさやいい意味での幼さがありますね。
たとえそれが悪役であっても、
せいぜい友達に意地悪をする、たわいないいじめっ子ぐらいの程度で、
子供の頃持っていた心を完全に失っていない、
そんなイメージがあります。

しかし、自然のみを描いた絵には、
人間の気配というものを全く感じない不思議さがあります。
 
比較して言うならば、宮澤賢治がその作品で描く自然は、常に人間の気配がする。
自然が人間と共生している息遣いがする。
しかし、宮崎駿さんの描く自然のみの作品は、
まるで人間が存在しない世界の自然のようでもあります。
自然の気高さ、荘厳さということとは少し違う
なんと言っていいんでしょうか…
とにかく人間の存在を完全に無にした自然の世界。

芸術は、作品に描く者の念が描き込まれるといわれます。
ちょっと上手く言えませんが、
宮崎さんの意識の中に、
そういうものを善しとする美意識のようなものが存在するのかもしれません。

その他にも、緑の中に埋もれる零戦やB29の残骸の絵には、
人間が人智を尽くしたもののちっぽけさ、愚かさ、
その反面、自然の優しい力強さのようなものを感じ、
ある意味、一番印象的な作品でありました。

原画展を見た分では、
主人公が、なぜあれだけひこうきの制作に没頭し、熱中したのか…
ひこうきというものは、彼にとって、
風を感じるため、風に近づくための道具だったんでしょうね。



「風」

クリスティナ・ロセッティ詩
西條八十訳詞


誰が風を 見たでしょう
僕もあなたも 見やしない
けれど木の葉を 顫わせて
風は通りぬけてゆく

誰が風を 見たでしょう
あなたも僕も 見やしない
けれど樹立が 頭をさげて
風は通りすぎてゆく




展示会場の一番最後のブースで、
主題歌「ひこうき雲」をBGMにした映画の予告編で流していたのですが、
そのユーミンの曲に乗せた数分間の映像を見ただけで
自称鉄仮面の自分の涙腺も思わず微妙にうるっと来ました(^_^;)

まるで、映画「風立ちぬ」のために、ユーミンが作曲したような気さえする、
宮崎駿さんの映像とユーミンの歌が、
素晴らしい相乗効果を生み出していました。

理屈でなく訴える、心にダイレクトに響くものがある。
わずかな時間ではありましたが、
そんな印象を受けました。
http://www.youtube.com/watch?v=a3PBiLDXawU