らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「三角形の恐怖」海野十三

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冒頭の三角形の列をよくご覧になりましたか。
三角形の数を数えるくらいじっくり見ていただいたら、
どうぞこの記事をお読みください(^_^;)

久々の日本のSF小説のパイオニア海野十三の作品「三角形の恐怖」。
ジャンルは、オカルトサスペンスコメディというところでしょうか。

今から二十年前の出来事を、
或る中年男性が独白し始めます。
それは二十年前に彼が犯した殺人事件の話。

当時数学科の大学生だった彼は、
趣味で読んでいた犯罪心理学の書物と、
専攻している数学との両方から発酵したアイデアで、
偶然、ある犯罪を思いつきます。

すなわち、人間が脅迫の観念に襲われるその対象となるものは、
平常その人間が気をつけていなかったものであり、
それに偶然注意が向けられた結果、
急にそのものが気になるようになり、
遂に一つの脅迫観念にまで至ってしまう。
そして、其の対象となるものが単純で、
且つ至るところに存在しているものであればあるほど、
脅迫観念を加速度的に生ぜしめるもの。

そして、主人公が目をつけたのが三角形。
三角形は三つの線分で作りあげることの出来る最も簡単な空間で、
いたるところに存在します。
彼は「三角形の恐怖」といったようなものを或る人間に抱かせてみようと決意します。

最初の導入部分の主人公の独白は、
妙におどろおどろしく勿体つけたような語り口でなかなか読ませます。

従来の憎しみや恨みで犯罪をする類ではなく、
いわゆる科学を実証するため
実験のモルモット気分で人を加害する。
こういう犯罪は、
人間関係の感情のしがらみから発生するものではないので、
人に恨まれるような筋合いのない人にも
降りかかってくるかもしれないという
漠然とした不安、恐怖とみたいなものがあります。

そして、その不幸なターゲットになってしまったのが、
細田弓之助という全く無関係な人物。

犯人は執拗に細田氏に三角形の恐怖を植えつけようとします。
正三角形の皮製財布をワザと道に置いて拾わせようとしたり、
郵便物の上に無気味な三角のマークをつけて送りつけたり、
細田氏が外出しなくなると、
細田氏宅の窓に三角形の凧を飛ばせて引っかけたり、
子供たちに紙でつくった三角形の帽子を被らせて庭で遊ばせたり…

それは非常に粘着で執拗ですが、
どこかコミカルでもあり、犯罪の実行行為というよりは、
イタズラに近いような気も(^^;)

しかし、その一連のイタズラのような行為も、
遂に最後のカタストロフ(破滅)を迎えます。

全身に赤い三角形の旗を身にまとい、風にひらめかせながら
細田氏に向かって突進する
自転車に乗った広告屋の爺さん。

細田氏的に見れば、
全身自分を殺す武器で身を固めた刺客そのものですよ(^_^;)

たまりかねた細田氏が逃げ込んだ喫茶店の中は、
室内装飾から、壁紙から、帳場の棚から、
これでもかというくらい数多くの三角形に彩られた
異次元のような空間で、
まさに細田氏にとどめを刺す死地といってもよい場所でした。

こうして主人公が計画した三角形恐怖事件は幕を閉じたのでした。

夕刊に「カッフェで大往生」と題して
細田弓之助(33)が喫茶店で頓死した記事が…
どんだけニュースのない日の夕刊なんだと思いますけども(^^;)

それによると、原因は病み上りの身で余り激しく駈け出した為、
心臓麻痺を起したものらしいとのくだりがあり、
事件の真相は完全に闇に葬られました。


巷では、よく体のアルレギーということが言われますが、
心にもアルレギーというものがあるのかもしれません。

無意識だったものが、一旦意識の中に入ってくると、
心から離れなくなり、いやでも意識せざるをえなくなり、
それが過ぎると、一種の拒絶反応、すなわちアルレギー症状を来してしまう。
最悪の場合には命すら奪いかねない…(^^;)

この物語をきっかけに、自分も、
三角形というものを意識するようになると、
それは至るところに存在していることに気付きます。
コンビニのきれいに羅列されたおにぎり、矢印の先端、
スーツのシャツの襟、家々の屋根の形、道路標識…

ひょっとしたら、あなたも知らずのうちに三角形に囲まれ、
見つめられ、追いつめられているのかもしれない…ですよ クリックすると新しいウィンドウで開きます
 
 三角形メッシュ(すべての面が三角形で出来た立体)で構成されたうさぎ