らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「春」山村暮鳥

 
 
 
 
「春」


のろいな
のろいな
なのはなの
はたけのなかをゆく汽車は
ひら
ひら
ひいら
あとからその汽車
追つかける蝶々(てふてふ)

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皆さんは、山村暮鳥という詩人をご存知でしょうか。
明治から大正にかけて活躍した人で、
独特のリズムで、自然や季節の美しさを表現した作品を数多く作った詩人です。

この「春」という詩も、
ひらがなの多用やその独特の言い回し、ゆったりとした間の取り方から、
春の暖かな、なんともいえぬのんびりとした、
のどかな情景を描き出しています。
春の温度というものを、肌で感じとることができるような雰囲気の、
なにか童話の挿し絵にもなりそうな感じの風景です。

ところで、山村暮鳥の、春を表現した詩で最も有名なのは、
次の作品ではないかと思います。

 

「風景 純銀もざいく

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
かすかなるむぎぶえ
いちめんのなのはな

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
ひばりのおしやべり
いちめんのなのはな

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
やめるはひるのつき
いちめんのなのはな。


 
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まるで菜の花の黄色で埋めつくされてしまったような、
言葉だけでなく、視覚的にも、思わずそのように感じざるをえないような
春爛漫の詩となっています。

辺り一面、黄色い菜の花に埋めつくされ、
時折かすかに聞こえる麦笛の音、ひばりのさえずり…

「やめるはひるのつき」は「病めるは昼の月」で、
昼間の空に浮かぶ白く儚(はかな)げな月のことで、
辺り一面に咲き誇る菜の花に対して、
その薄く白い、弱々しげな姿を「やめる(病める)」と
表現したのではないかと感じられます。

なんでも昭和30年代くらいまでは、
秋、田んぼの稲を刈り取ると、
すぐに田を起こし畝を作り、菜種を蒔いたそうで、
日本各地に菜の花畑が広がっていたそうです。

ですからこの詩の風景は、
かつて日本各地で見られた、
春の原風景のようなものだったのかもしれません。

なお、最後の部分について、
病める昼の月とは、作者の心の内を表しているのではないか
という向きがあります。
なるほどそのように感じ取ることも、
できなくはなさそうですが、
仮にそうでなくとも、
一面黄色な菜の花畑に春の青空。
その青い空にぽつんと浮かぶ白い儚(はかな)げな月というのは、
色彩的にみても非常に美しい風景のように感じます。