らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「白雪姫」菊池寛訳

 

グリム童話「白雪姫」というと、
継母にうとまれた白雪姫が、城を追われ、
七人のこびと達と、森で生活を共にするようになるのですが、
継母に騙され、毒リンゴを食べ死んでしまうも、
最後は王子様のキスで目覚め、めでたしめでたし。
というお話だったと思いきや、
実はこれは、ディズニーの改変された「白雪姫」だったようです。
 



 
 

今回読んだ菊池寛翻訳によるものが、
もともとのオリジナルに近いものらしいのですが、
ディズニー版とは、かなり物語が異なります。

継母の女王は美人ですが、
自惚れが強く、我が儘で、自分より美しいものの存在が絶対に許せないという、
何か芸能界などにありがちなキャラの女性なんですが、

白雪姫が七歳になった時、
お気に入りの魔法の鏡に決定的なことを言われます。

「女王さま、ここでは、あなたが一番美しい。
けれども、白雪姫は、千倍も美しい。」

私が一番美しいって言っておきながら、
白雪姫はその千倍美しいってことは、
結局私は一番じゃないわよね?
というツッコミを鏡にする心の余裕も無かった女王は、
狩人に命じて、森で白雪姫を殺すように命じます。

しかし狩人は無垢な白雪姫の命乞いに、あっけなく任務放棄。
適当にごまかして女王に報告します。

原典ですと、女王は証拠として、
白雪姫の肝を持ち帰ってくるよう命じ、
狩人が持ち帰った肝(実は猪のもの)を
塩茹でにしてむさぼり食っています。
これには、美に対する執念というものとは別に、
思わず野性味溢れるゲルマン民族魂みたいなものを、
感じてしまいます。

そんなこんなで白雪姫は七人のこびとの家にたどり着き、
家事をきちんとしてくれるなら…という条件で、
彼らとの共同生活が始まります。

一方、魔法の鏡により白雪姫が生きていることを知った女王は、
もはや他人任せにはできぬと悟り、白雪姫殺害計画を実行します。

自ら紐を売りに行き、白雪姫が油断した隙に、紐で首を締め上げたり、
毒つきの櫛(くし)で、白雪姫の頭に櫛を突き刺したり、
挙げ句、毒リンゴを食べさせたりするなど、
必殺仕事人顔負けのバリエーションあふれるアイテムを使用し、
しかも全部自分で作っています。

しかも三回三様の変装で、
ある時は、顔の黒い小間物屋の老婆、
またある時は、別の小間物屋のおかみ、
そしてまたある時は、百姓のおかみ、
しかして、その実体は…心のねじけた女王。
というように変なバイタリティもあります。

しかし、七人のこびとに邪魔され、
すんでのところで目的を果たすことができません。

最後の毒リンゴ作戦は、上手くいきそうでしたが、
白雪姫の遺体の入ったガラスの棺を貰い受けた王子の家来が
木につまずき、棺が揺れた拍子に、
リンゴのかけらが、喉から飛び出し、
白雪姫が蘇生するという、
なんというか…
必殺技でないショボい技で、
勝負が決まってしまった感のある結末をむかえ、
女王の計画は失敗に終わります。

ここは王子様のキスの方が良かったんではないですかね(^_^;)

原典によると、
こんな死体のために、俺達が大変な仕事を押し付けられたと、
王子の家来が、白雪姫の背中をど突いたら、
その拍子にリンゴが口から飛び出したという話もあるそうです。


それにしても、この白雪姫。
最初の狩人といい、
勝手に家に入られ、飲み食いされた挙げ句、
自分のベッドで熟睡されていたこびと達といい、
死体であってもぜひ引き取りたいと言った王子といい、
その他森のケモノ達諸々もそうですが、
白雪姫が美しいという理由で、
命を助けたり、許したり、労を惜しまなかったり、悲しんだり。

かわいいは正義」の典型のような行動を、
男どもみんなで取っています。

白雪姫の白は、雪のように白い肌のみでなく、
疑いを知らない、無垢で純白な心を象徴しているようですが、
今回読んでみると無垢というよりは、
天然ボケの、ちょっと鈍い子という印象の方が強いような気もします。

最後、白雪姫が王子と結婚することを知った女王が式の様子を見に行くと、
式に来ていた人々が、
石炭の火の上で真っ赤に熱せられている鉄の靴を、
無理やり女王に履かせ、倒れて死ぬまで踊らせたところで、
話は終わります。

果たして、このシーンを、無垢な白雪姫がどのような気持ちで見ていたのか、
原典を含め、描写しているものはありません。

ただし唯一、日本で最初に翻訳されているもののみが、
女王が今までの罪を悔い、白雪姫に詫びを入れ、
二人が和解するという結末に改変しているそうです。
ちょっと面白いですね。

さて、現在「白雪姫と鏡の女王」という映画が公開中のようです。
 


ジュリア・ロバーツ演ずる女王の表情からすると、
原作の、女王の少々間の抜けた行動を
デフォルメしたコメディタッチの作品のようです。
でも原作をデフォルメしたくなる制作者の気持ち、
今回自分も読んでみて、ちょっとわかるような気がしますね。